第19話 潜入①
「じゃ、いいですか、行きますよ」
シエルと
「すみません。人を探しているのですが。……この人をご存知ではないですか?」
PCで二人の顔を合成したり老けさせたりして作った架空の人物の写真を見せる。
「ちょっとお借りしてもよろしいですか? 他の者にも聞いて参りますので」
随分丁寧で柔らかい物腰。シエルにも清羅にも本当の色は見えないので、白い集団だということ以外、まだわからない。
さっきの人が戻ってきた。
「似た人を見たという者がおりました。もしよろしければ、ご一緒に
「よろしいんですか?」
「ええ。どなたでも歓迎いたしております」
「どうする?」
シエルが清羅に尋ねる。
「お兄ちゃんが行くんだったら」
そうして二人は白い集団のバスに乗り込んだ。あれだけ勧誘していた集団が、二人を乗せるとすぐにバスに乗り込み撤収する。
「1日で二人も勧誘すれば上出来ってことなんだろうな……」シエルは思った。
「失礼ですが、探されている方というのは
……?」
白い服の一人が尋ねる。
「僕たちの母親です」
「そうですか。見つかるといいのですが……」
そう言いながら、例の偽物のパワーストーンブレスレットを渡してきた。
「幸運を招くお守りです。どうぞ、お持ち下さい」
「いえ、こんな高そうな物を頂くわけには……」
シエルは一応遠慮してみる。渡されるであろうことは予測していて、自分で作った似たような本物のパワーストーンブレスレットは用意してある。
「いいえ、私達は地球上の皆の幸せを願っております。よろしければ、どうぞ」
シエルは清羅のと二人分受け取ると、見えないよう素早く自作の物と取り替え、つけた。清羅にも渡す。
バスは山の中の白い建物に入って行った。
「ここは?」
「私達、『幸せをもたらす会』の家です。さあ、どうぞ、ご自分の家だと思っておくつろぎ下さい」
白い服の一人が言う。
「いえ、僕たちは、母を探したらすぐ連れて帰るだけなので……」
シエルは一応、抵抗を試みる。
「お母様が見つかればいいですね。さあ、お入りください」
白い居間へと通された。清羅と二人だけを置いて、白い連中は一旦出て行った。
「白、白、白……病的だな」
シエルは低く呟く。
清羅もチクチクと微量に刺さってくる「妖気」のような感じを覚えていた。
「お待たせしました。会長をご紹介いたします」
「会長?」
二人の前に、白い服を着た、体格のいい男性が現れた。他の人と区別するかのように、胴回りに銀色の帯を巻いている。
「お母様をお探しだそうですね」
「はい。こちらに似た人がいるとお聞きして、お邪魔しております」
シエルが答える。
「そうですか。こちらの施設では今『研修』をしておりましてね、その中にいらっしゃるのかも知れません。見学なさいますか?」
清羅を見ながら言う。清羅は、シエルの袖をギュッと握った。
清羅が何かを感じているのかもしれない、そう思ったシエルは、
「すみません。妹は人見知りが激しいものですから、不安なようです。少し言い聞かせてみます。ちょっとだけ待ってください」
「そうですか、では、いつでも会員の誰かに言って下さい。それまで、こちらでゆっくりして下さって構いませんので」
そう言って会長は出て行った。
シエルが立っている清羅の前に膝をつき、軽く抱きしめる。背中をさすりながら。
「し、シエルさん?」
慌てて後ずさる清羅を抱きしめたまま、
「盗聴されてます。カメラも。このままで。少し泣きそうな顔をしていてください」
小声でシエルは言う。清羅を説得しているような様子を作るのも忘れない。
「何か感じたものがあるんですね?」
清羅がうんうんと頷く。
「さっきの人から物凄い妖気を感じました。ここへ入ってからずっとその感覚がチクチクとしていたのですが」
「そうか……じゃあ、お兄ちゃんだけ行ってくるから、
盗聴器に聞こえるほどの声でシエルが言う。
「嫌! 一人にしないで! 一緒に行く!
お母さん、絶対いるよね?」
清羅が合わせる。シエルは清羅の頭を撫でると、うんうんと頷き、小声で言った。
「危険を感じたらすぐ言って下さい」
清羅は深く頷いた。
それにしても広い施設だ。そして何もかもが白い。普通の人なら精神的に何らかの異常を起こしてもおかしくないくらいだが……。こんなところに透子の後輩が本当にいるんだろうか? 他にも同じような施設があれば同じ手は使えない。
「こちらです」
奇妙な音楽が流れている場所で、大勢の白い服の人達が、手を変な形に組みブツブツと何かを唱えている。
「これは?」
シエルが問う。
「世界中の人々が幸せであるようにとの祈りです。」
そう言いながらシエルと清羅の様子を伺っている。
そうか、さっきの石はこの奇妙な音や言葉に反応して誘われるようになっているのか……。カバンに入れた石が熱くなっているのがわかる。どこかですきを見て捨ててしまった方が賢明だろう。
シエルは頭が痛いふりをした。気がついて、清羅も頭を抑える。
「どうぞ、御探し下さい。」
シエルは正面から素早く全体を見渡した。
「いた」
勿論、仮想の母親ではなく、沙織が。透子に写真を借りてしっかり顔は覚えていた。
よく見ると「研修」させられている人々とさせている側の人々とは色こそ同じ白だが形が違う。
「電話してもいいですか。母がいたことを祖母に知らせたいので」
そう言うと、白い服の男は嘲笑うように言った。
「残念ですが、ここは圏外なんですよ」
なるほど。外部との連絡を全く遮断してしまっているわけか。それは、一旦ここに入ってしまったら、二度と逃げられないだろうことを意味していた。
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