第20話 潜入②
「あとですね、連れて帰られるのは構いませんが、代わりにご寄付を頂いております」
「寄付?」
「500万円ほどご用意いただければ十分かと」
「そんなお金……」
清羅がシエルの影に隠れながら小さい声で言う。ちゃんと頭が痛いふりは続けている。
「それから、ご寄付はありがたく頂きますが、本人が帰りたくないと言う分に関しては、無理強いはお断りいたしております」
「そんな……」
清羅が姿勢を低くしながら、シエルの側にもたれる格好を取った。
「大丈夫?」
シエルが尋ねる。
「私ならいつでも」
施設の外でキラッとした物が浮かんで消える。シエルも光る石を頭上高く投げた。
バンッ!!
大きな音がして、研修者たちがいる後ろ側の柵が壊される。
「な、なんだ?!」
白い服の男たちが驚きの声を上げた。
シエルは隣にいた男の後ろにスッと回り込み、首元にナイフを突きつけた。
「『会長』のもとへ案内して頂けますか?」
「そんな……ブレスレットは……」
「これのこと?」
清羅がバッグから放り出す。
「妖気がプンプンする。こんな物は、こうしましょう。」
ジュウウウ……
清羅が手をかざすと、ブレスレットはたちまち灰になって消えた。
「お前たち……」
「さあ、案内して下さい」
目の前に戦っている仲間たちの姿がある。心配していたサトルも来ていて、透子に敵か否かを凄い速さで教えながら、透子は言われた方向にいる白い服の男たちに強い光を放ち、次々と倒して行っている。
ここは彼らに任せてよさそうだ。シエルは、男に更に強くナイフを突きつけたまま言った。
「『会長』のところへ、早く」
すると、男は笑い始める。
「はははは。これは面白い。私たちをナイフごときで殺せるとでも?」
「どういうことだ?」
男はナイフを持つシエルの手を取り、一気に自分の首すじを切った。
咄嗟にシエルは飛び退いた。
シュウウウウ……
男は音を立てて蘇る。
「何?!」
驚いているシエルの近くで声がした。
「シエル、清羅、離れて!!」
明日香だ。
バンッ!!!
一磨が放った強い光が蘇った男を貫く。
「グエッ……グォォォ……」
もう一度光が放たれると、男は真っ黒な塊になった。
「シエルさん、大丈夫か?」
一磨が聞いてくる。シエルは頷く。
「奴らに剣やナイフは効かないようね。一磨と透子のような『光』攻撃しかないみたい」
明日香が言う。隣で黒い塊を浄化している清羅。塊はシュウウウという音を立てて、跡形もなく消えた。
サトルがシエルの元へ駆け寄る。
「シエル! シエル!! もう、あなたに何かあったらどうしようかと……」
涙を浮かべている。
「外にいた奴らは全部片付きましたね。あとは中に逃げ込んだ奴らか」
透子も合流して言う。
「結構あるねぇ、清羅ちゃん」
花梨がキョロキョロしながらやってきて、
「よし、一気にやっちゃうか」
そう言うと、清羅と背中合わせになり、360°全ての黒い塊を浄化していく。
「凄いな……」
シエルは呟く。僕の仲間はこんなに強かったのか。透子もいつの間にか一磨と同じ位の光が撃てるようになっていたとは……。
「建物がどうなっているのかは、残念ながらわかりませんでした。ただ、『会長』と呼ばれる男がいて、彼だけ銀色の帯をしていました」
シエルは皆に報告する。
「おー。ラスボスじゃん、ラスボス」
花梨が笑いながら言う。
「もー、あんたは。ゲームじゃないんだからね」
明日香が
「それから、どこかから奇妙な音がして、その音に彼らが渡してきたブレスレットが強く反応していました。早く研修者からブレスレットをはずした方がいい」
そう言うと、清羅が頷いた。
「そのことなら任せてください。行こうか、花梨ちゃん」
「はーい。ちょっくら行ってきまーす」
そう言うと、二人は、研修者集団の真ん中に行き、再度背中合わせになると、力を放出した。
フヮワワワワ……
と、皆の様子が変わった。
サトルがそれを見て、
「皆、正常に戻ったわ。よかった」
と言う。
「サトルさんの色見の速さには絶対ついていけない。凄いなぁ」
と、明日香が感心した。
「さーて、ラスボス様はどこにいらっしゃるのかな?」
一磨が立ち上がる。と、
「危ない!!」
シエルが一磨を抑えた。黒い矢が一磨の頭上をかすめる。
「なんだ?」
「攻撃をしかけてきたようですね」
シエルの言葉にサトルと明日香が震え上がる
「二人とも大丈夫?!」
サトルがシエルに近づこうとする。
「来ちゃダメだ!!」
シエルが叫ぶ。
「そこ!!」
透子が光を撃った。近くの壁の影から呻きながら白い男が崩れ落ちる。もう一発。男は黒い塊になった。
「もう中には普通の人はいないと思うが、明日香も一緒に来てくれ。透子、行くぞ!」
一磨が言う。透子と明日香が頷く。
「シエルさんは、あとの三人をよろしくお願いします」
「わかりました」
三人が奥に行った頃、サトルはシエルの傍で半分泣きそうな顔をしていた。
「なんて顔してるの、サトル。僕ならほら、大丈夫だよ」
そう言うシエルから少し離れて彼を見ていた清羅がハッとしたように言う。
「サトルさん、シエルさんから離れて。妖気がシエルさんの服から……。あっ、あの返り血を浴びたときかもしれない」
確かに、シエルの服は血まみれだった。
「それが『闇』の『呪い』のようなものなのかもしれません。浄化しますね」
そう言うと、清羅は、シエルに向けてパワーを放つ。シエルについていた血は全て消え去り、一滴たりとも残っていなかった。
ただ、シエルの肌に直接ついた血は、浄化をした時、火傷の跡のように残った。左手の所々に。サトルが驚いてシエルの左手を取る。
「シエル?! シエル! 大丈夫なの?!」
シエルは、右手でサトルの髪を撫で、
「大丈夫。ただの火傷だよ」
そう笑って、サトルを抱きしめた。
「わぁ〜おぉ」
花梨の声がして、シエルがハッと、サトルから離れる。
「す、すみません……余りにもサトルが心配するもので……その……つい……」
「そんなの当たり前ですよ、大事な人ですものね」
清羅がにっこりと微笑んだ。
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