第21話 潜入③

 一磨かずまが先頭に立って進むと、大きなドアがあった。

「ここですよ、と言わんばかりの部屋だね」

 明日香あすかが小声で言うと、

「プリズムをおびき寄せるためだからな」

 一磨がそう言い、透子とうこに目で合図を送った。

 透子と明日香、一磨と二手に別れて、扉を開ける。

 ヒュッ、ヒュッ!!

 さっきの黒い矢が飛んでくる。一磨が光を放つと「グェッ」という声がして白い男が倒れ、もう一度光を放つと、黒い塊になった。

「あっちにも!」

 透子が光を放つ。もう一度。その男も黒い塊になった。


「これは後で清羅きよら花梨かりんに頼もう。ってか、一人に光を2度放たないとダメってのは面倒だな」

「でも、一度目で動きは封じられますよね。その分、時間は稼げるかも」

「そうだな」


 奥へと進む。広間に出る。

「パーティルームかよ」 

 その奥に続くドアに近付こうとした時、


 ドンッ!!


 大きな音がして上から鉄柵のような物が落ちてくる。


「しまった!」


 とっさに避けようとしたが、3人ともその柵の中に閉じ込められてしまった。


「プリズムが2つに色読みが1つ。悪くない収穫ですね」

 奥の扉から『会長』が現れて、ゆっくり手を叩きながら言う。

「会長、あとの4人はどうしますか?」

 側近だろうか、会長より少し暗い銀色の帯を巻いた者が問う。

「あの美しい女だけ残しなさい。あれは使えそうだ。あとは殺していいでしょう」


「くそっ!!」


 一磨が会長に向かって光を撃つが、柵に阻まれる。どうやら、光を吸収する力があるらしい。剣を抜き、それで叩き切ろうとするが、びくともしない。


 「このプリズムたちも大したことはないのですね。今、ちゃんと魂を抜いて差し上げますからね」 

 会長がそう言うと、またあの変な音楽が鳴り始めた。次第に頭がクラクラしてくる。

「あれは……」

 明日香が上を指差す。柵の上部に幾重にも巻かれた、例の偽物のパワーストーン。

「なんとか……あれを……」

 そう言う明日香も立っているのが限界になって座り込んだ。

「もう少しかな? じゃあ、後は頼みましたよ」

 側近にあとを任せ、会長は奥の部屋に入って行ってしまった。


「クソッ……どうすれば……」

 一磨も限界に近いようだ。透子も耳を塞ぎながら、意識が薄れつつあった。


 バンッ!!


 次の瞬間、扉が勢いよく開き、4人が入ってくる。

「こーんなカラクリ、壊しちゃえ!!」

 花梨が元気いっぱいで言うと、清羅と一緒にパワーストーンを一気に浄化して柵ごと壊す。


「何?!」

 逃げようとした側近の男に、シエルがナイフをつきつける。

「馬鹿か。俺たちにナイフは通用しないんだよ。それともまた火傷したいのか?」

 男が半分笑いながら言う。

「『普通の』ナイフならね。」

 シエルもにっこりと笑った。

「あなた方の大嫌いな、クリスタル製です」

「何!」

 相手に次の言葉を言わせる前に、シエルの手が動いた。瞬間的に切り刻む。相手は黒い残骸と化した。


「ヒュー、やるなぁ、シエルさん。惚れそう。」

 そう言いながら、花梨がそれを浄化する。

「3人とも大丈夫ですか?」

 清羅が一磨たちに話し掛ける。

「大丈夫だ、もう動ける。ありがとう。」

「あたしも大丈夫。透子は?」

「大丈夫。動けます」

「よし、じゃあ行くぞ!!」


 とその時、

「キャーーッ」

 という声。サトルの声だ。

「サトル?!」

 シエルが走り寄ろうとすると、サトルを抱えて行こうとする男がいた。

 男はサトルの首にナイフを突きつけると笑って言った。

「この女は『供物くもつ』としていただく」

「サトル!!」

「シエル、ごめんなさい……」

 会話を聞いて男はますます笑う。

「恋人同士でしたか。それはそれは。美しい光景だ」

 透子が光を撃とうとするのを一磨が止める。

「サトルさんに当たったら大怪我するぞ。」

「何よ! あたしが代わりに行ってあげるわよ!! サトルさんを離しなさいよ!!」

 花梨が怒りながら近づく。

「美しくなければ意味はないのだ。……それ以上近付くと本当にこの女を殺します。まだ新鮮な血が滴っているうちは『供物』として十分な価値がありますからね」

 男は嘲笑あざわらう。


「シエル……」

 サトルの目から涙がこぼれる。

 どうしたらいいの? 透子は考え、思いついた。

「ハッ!!」

 男を睨んでいた視線を急に男の斜め後ろにやる。

 男が慌てて振り返る。と同時にシエルがサトルにクリスタルのナイフを投げ渡した。サトルが力一杯、後ろの男を刺す。男がふらつき、サトルから離れると、シエルが刺さったナイフを抜いて、男を切り刻んだ。


 透子がサトルのもとに駆け寄り、すぐに男から遠ざける。シエルは男が黒い残骸になっていくのを、息を切らせながらしばらく見ていたが、花梨が浄化を始めたのを見て、ハッと気がついたように振り返った。

「サトル!!」

 サトルのもとへ走る。

「怪我は? 怪我はない?! 大丈夫?!」

「肩の所に少しだけ切り傷が……。」

 透子がそう言って押さえていたハンカチを取った。3センチほどの切り傷ができて、血が滲んでいた。

「ごめん……無茶なことをさせた……」

 サトルの傷をハンカチで押さえながら、シエルがたまらずサトルを抱き寄せる。シエルは、全身、震えていた。サトルを失っていたかもしれないという恐怖と、そして憎しみで。

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