第18話 カルト

 沙織の携帯番号に電話するが繋がらない。どうやら電源が切られているようだ。


 嫌な予感がして、沙織と同じサークルの里美さとみという後輩に電話した。彼女は沙織といつもくっついていたので、私とも仲が良かった子だ。

「里美? 望月もちづきです。望月透子。わかる?」

「勿論です。勿論です。お久しぶりです〜。……どうかしたんですか?」

「急に電話してごめんね。ちょっと聞きたいことがあって」

「はい?」

「沙織って、今、どこにいる?」

「あ~、沙織は……」

 少し間があった。

「長野? 群馬? なんかその辺の山の中に行くとか言ってました」

「山に? 登山……とか?」

 沙織にそんなアウトドアな趣味あったかしら? と思いながら尋ねる。

「いいえ……あの、なんていうか、沙織、最近おかしいんですよ」

 やっぱり、変なカルト集団に騙されているのか?


「こないだは、小さな壷を買ったんだ、って言ってました。そこから身を浄化する空気が出てきて、悪い気を取り払ってくれるって。幾らしたの? って聞いたら、5万円」 

「5万円?? ねぇ、凄くわかりやすく騙されてない?」

 パワーストーンブレスレットの次は壺だなんて、あまりにもお約束すぎるでしょ? なんでそんなものに手出しちゃうかな?


「で、山の中っていうのは、何?」

 里美に問う。

「私もよくわからないんです。ただ、『研修』だとしか……」

 ますます怪しい。いや、怪しいだけならまだしも、可愛い後輩の身に何かあってからでは遅すぎる。

「沙織の携帯が繋がらないの。何か連絡を取れる方法、わからない?」

「わからないんです、それが。私も携帯にも何度もかけてますし、沙織の実家にも電話したんですけど……。施設? の場所も詳しく聞いてません」

「うーん。そっか。ありがと。何かわかったら連絡もらえる?」

「わかりました。……先輩、沙織、大丈夫ですよね?」

 わからない。本当のところ、まだ何もわからないのだ。が、

「大丈夫よ、きっと。帰ってくるの待って、話を聞きましょ」

 と答えておいた。帰ってくることを願って。


「COLOR ENERGY」に集まる。

 沙織の話をすると、

「なるほど、そういうことか~。それであの色だったんだ、大学辺りの空気」

 明日香さんがサトルさん、シエルさんと顔を見合わせ頷く。

「『闇』に誘われている危険な状況を現すような色だなぁ、と感じたんです」

 シエルさんが言う。

「まさか、後輩がその対象になってるなんて、思いもしませんでした」


「狙いは、また透子かもな」

 一磨さんが私の方を見ながら言う。

「透子を引きずり出すために、お前の後輩狙ったのかも」

 そんな……私のせいで沙織がそんな目に?

「中の様子を探ることはできないかしら?」

 明日香さんが言う。

「無理だろ。プリズムは向こうに見抜かれるみたいだから、透子も俺も無理だし、色が見えるやつも攻撃してきたってことは、明日香も無理。サトルさんも色がわかるし、デリケート過ぎる」

 考え込む一磨さん。

「じゃあ、あたしが行くよ!!」

 花梨が元気いっぱい手を上げたが、すぐに一磨さんに却下された。

「赤点ギリギリの奴は、ちゃんと勉強してろ!」

「えー」

 まだ高校生の花梨の身を心配してのことだろう。


「僕が行きましょう」

 シエルさんが静かに言った。

「シエル?」

 サトルさんと明日香さんの声が重なる。

「僕は色は見えませんが、状況を知ることはできます。その中で何か色を読むチャンスもあるかもしれませんし」

 確かにシエルさんなら疑われないかもしれないが……

「だけど、シエルは戦えないじゃない。危険な目に遭ったらどうするのよ?」

 明日香さんが怒ったように言う。

「いや……えーとですね……」

 

 次の瞬間、シエルさんは一磨さんの後ろに回って首にナイフを当てた。

 あまりの速さに、何が起こったのか誰もわからなかった。

「し、シエルさん?」

 一磨さんが一番驚いている。

「……一応、こういう訓練も受けていまして……」

 一磨さんに当てていたナイフをそっと外した。 

「ホントはシエルは使いたくないんだけどね。平和主義の人だから」

 サトルさんが笑う。


「じゃ、決まりかな。シエルで」

 明日香さんがそう言うと、

「待って下さい、私も行きます」

 うつむきがちに聞いていた清羅ちゃんが言った。

「清羅?」

 誰もが清羅ちゃんを見、顔を見合わせた。

「危険かもしれないんだぞ?」

 一磨さんが言う。

「私には『闇』に囚われた人を浄化する力があるんだから、何かに使えるかもしれないでしょ?」

 確かにそうだが、そんな細くて小さな身体の人を一緒に行かせて大丈夫なんだろうか?

「いざとなったら、僕が守ります」

 シエルさんがそう言う。

 心配しながらも、二人に任せることにしたのだった。

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