36.伏見稲荷大社
(さぁ着きました京都駅)
本当にこれでこの旅は終わる。祇園で体力的に力尽きて京都駅に戻ってきた。また京都タワーに見下ろされたことで、1日目にこの京都駅で1人旅をスタートしたことを思い出す。京都らしさのない京都のシンボル。確かそんなことを思った記憶がある。あの時は旅の始まりとして、そして今は旅の終わりを告げるために俺は見上げている。もうここから移動しない。俺の一人旅はこれで終わるのだ。
(スタバ入るか)
京都タワーの麓にはスタバがあることは東本願寺に行った際に見たので知っていた。祇園のこともあったので、一応外から中の混み具合を伺った。満席ではなく、程よく席は空いていた。これなら入っても問題はない。俺はスタバに入った。
「いらっしゃいませ」
そう言われて俺はレジに向かい飲み物を注文。そのまま席に着いた。
一口カフェインを口にして一息ついた。
(あぁぁぁ疲れた)
俺はもう1日目のことを思い出そうと写真フォルダを開いた。随所で写真を撮っていたが、今回ではなく前回の写真を見返そうと思った。二年前なのでかなりフォルダをスクロールしたが、普段から滅茶苦茶写真を撮る人ではないので、案外すぐに二年前にたどり着いた。そこには今回行かなかったものの、目に付くものがあった。「伏見稲荷大社」だ。
(懐かしい。行ったな~)
伏見稲荷大社は実はライトアップされるので夜に拝観できる。それを調べたので、前回は夜に伏見稲荷大社に行ったのだ。写真を見るとその時のことを思い出してきた。
(確か、、、)
2年前
「うわうわうわ」
俺はとても興奮している。非常に興奮している。初めて夜の拝観というものにチャレンジしているのだがここまで「怖い」と思うことに驚きがある。桜門の前に立っているのだが「何かいそう」という雰囲気がある。
(狐が出そうだな)
伏見稲荷大社なので狐の霊が出てもおかしくはない。そんなことを考えて桜門をくぐった。
電気があまり点いていないので不気味だ。できる限り明かりが抑えられているので、明るさよりも暗さが勝っている。桜門を抜けると本殿があった。もちろん、しっかりとお参りを済ませてからあの鳥居をくぐるつもりだ。
(罰当たるからな)
罰当たりにはなりたくないので、しっかりと参拝して手を合わせた。参拝したところで、本殿の左側から裏に行く道で千本鳥居まで進んだ。夜なのでとりあえず不気味だ。怖さよりも楽しさと高揚感でいっぱいだ。千本鳥居はかなりの目玉なので人も多いと思ったが、夜の参拝を知らない人が多いのだろうか。思ったよりもいない。てか、外国人が他と比べて明らかに少ない。多分外国人は夜に参拝できることを知らないのだろう。
少々の階段を上って右に曲がった。するとすぐに朱色の鳥居が出現した。
(赤!でか!)
1つ目の鳥居はインパクトが大きい。1つ目の鳥居なので皆写真を撮っている。
「oh,beautiful」
(うお!外国人いたわ)
日本人でもびっくりするのだから、外国人にしてみれば驚くどころではないはず。俺は写真を撮り終えたのでそのまま千本鳥居に入っていった。
(なんだこれは!)
進むと四方を鳥居で囲まれた。完全に赤い鳥居の箱に閉じ込められている。暗い山の中にこんな赤い鳥居があることも凄いが、何本あるのかわからないくらい植えられていることも凄い。進めば進むほど鳥居が出てくる。どこが終わりかがわからない。
鳥居が終わったかと思えばまた新たな鳥居が出てくる。
(無限ループしてんのかこれ)
そう思うほどの量の鳥居がここにはある。辺りは完全に暗いため、鳥居につけられた明かりがぼんやりと周辺を灯している。暗いお陰で必要ない視覚情報は全てシャットアウト。必要なものしか照らし出されていない。人も少ないので感動を独り占めできている。千本鳥居の中腹で写真を撮ることにする。試しに撮ってみると、取りつけられている明かりをレンズが吸収しすぎて上手く取れない。最適な位置を何度か試行錯誤して見つけている。
(どこだ)
何枚か撮ってみたが失敗ばかり。諦めた方がいいのかもしれないと思いながらも、どうにか納得のいく一枚を撮りたい。
(ここはどうだ)
鳥居の明かりの真下の少し前。そこから撮影すると納得の一枚が撮れた。
(え、)
スマホの画面には誇張しすぎていない光で程よい暗さの写真。鳥居の色がしっかりと繁栄され、そこにはたまたま映った女性の後ろ姿。
(完璧だ)
なぜこんな完璧な写真が撮れたのかはわからない。あんなに光が邪魔をしていたのに急に主張してこなくなった。プロからみたら全然上手くない写真だとしても、俺にとってこの写真はインパクトが大きい。俺からすると完璧なのだ。名前も知らないただ映り込んでしまった女性は映りが小さいながらも大きな印象を与える。もちろん顔は写っていないし、遠いので小さい。そして、後ろ姿なので問題ない。俺は写真を再び見返したが理由はわからいものの、この写真に惹きつけられる。
(一生忘れない)
なぜかこう思っている。もう一度確認だが、理由はわからない。俺の脳が気に入っているのだから。こういった経験がある人は俺以外にもいるのではないだろうか。そして、こうも思っている。
(ここに来たことも忘れない)
旅先で感覚が研ぎ澄まされてしまっている可能性はあるが、だとしても俺はここに来たことを忘れない。それほどまでこの一枚の写真には力がある。一瞬この場に静寂があったかもしれない。その瞬間をたまたま写真で収めたのだろう。これ以上言語化ができない。じっと立ち止まっているのもおかしいので先へ進んだ。
(狐のいたずらかな)
だとしたらありがたい。先を進むと「出口」と書かれた看板が出てきた。どうやら登山をする人はここから登り、そうじゃない人はこの出口から戻るらしい。暗い上に何時間かかるかもわからない登山をする気はないのでこのまま出口で戻る。
出口から戻るとそこは一本目の鳥居の近くだった。
(おっと。もう一周できるやんけ)
もう一度楽しみたいと感じ、吸い込まれるように鳥居をくぐって二週目を開始した。
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