16.竹林の小径
(あれ、おかしい。竹林どこだ)
恥ずかしい話だが俺はどうやら道を間違えたようだ。間違えたと判断する理由は2つ。先程の学生が後ろを見てもいないこと。もう1つは明らかに人通りが少ない事だ。常寂光寺から竹林への道は多くの人が通るため少なからず人通りはあるはずなのだ。にも関わらず本当に誰も通らない。間違えたと判断していいだろう。
(ボーッとしてたのが悪いが、道に迷うのもまた1人旅)
俺は道に迷うのも実は好きだったりする。ドMとかそういうことではない。道に迷えば新しい発見があるからだ。道に迷わないと出会えない景色に出会えるし、友達と来たら道に迷うと大体「なんでだよ」と言った感じでツッコミが入る。1人だとそんなことはない。間違えてもこのまま突き進んでいいのだ。
(左手には公園右手には住居。住宅街…だよな)
どうやら普通の住宅街に来ているようだ。公園は中々広いようで子供的には嬉しい広さなのではないだろうか。
(あれ、案内標識…竹林はこっちか)
(…あれ!?道あってたの!?)
竹林への正当な道ではないかもしれないが無事に竹林へは行くことができるようだ。
(ん〜あってたのかな。本当にこの道通ったことないはずなんだけどな)
これもまた1人旅の醍醐味。「何故か目的地に着く」不思議だが有り得る話。
(答え合わせしてやる。マップのアプリで確認だ!)
俺はスマホに入っているマップのアプリを開いて道順を確認したところ、どうやら右折すると常寂光寺に行ける十字路で真っ直ぐすすめばよかったらしい。トロッコ嵐山駅に突き当たりそのまま竹林へ入れるルートが多分正規ルート。
(そちらは確かに行ったことある。ショートカットなのかこっちは)
謎が解けたところで先へ進んだのだが、しっかりと竹林が出現した。どうやら本当に途中合流のような形でありそうだが無事に竹林に到着できたので良しとしよう。
(うわ、めっちゃ竹)
語彙能力低下が著しい。語彙力低下するのも納得なのではないか。京都の竹林であれば誰でも一度は見たことあるだろうが、ここまで大規模な竹林はあまりない。鎌倉にも報国寺というお寺に竹林はあるので関東住みの人はそこで見ることは可能だが、スケールが全然違う。観光客の数もかなり違うのではないか。日差しを遮るような青い竹の密集地帯。ここでは誰もが写真を撮っている。なので、ここを歩く時は写真に写らないように立ち回るのは困難。
「あ、すみません」
行ったそばから人のカメラの前を堂々と通るところだった。あまりにも竹の本数が多く圧倒的であるため尻込みしてしまう。道が作られていなかったら迷う自信しかない。
(タケノコだ)
じっくりと地面を見ているとまだ竹になりきれていないタケノコがあることがわかる。タケノコの成長スピードはかなり早いらしいのですぐに竹になるだろう。この等間隔に節がある摩訶不思議で神秘的な植物自然美。どこに寄り道するのではなく成長まで一直線な竹。
(寄り道しまくる俺としては見習いたいゾイ)
良いこと言おうとしているのに恥ずかしくてデデデ大王になりきる時点で俺もまだまだだ。
俺はここでもしっかりと写真は撮る。ここは基本どこで撮ってもいい写真は撮れるのではないだろうか。明確な撮影スポットは見たことないがもしかしたらプロの方々がおすすめの撮影スポットを共有しているのかもしれない。俺としては「写ルンです」で撮ってあえてレトロな雰囲気を出す方がいいと思っている。あまり画質が綺麗すぎると写さなくてもいいものまでしっかりと写ってしまう。同じような景色が並んでいるし、人が沢山いるからこそぼかすことで魅力があがると思っている。あえて見えにくいことで映える写真というのもあるのだ。
(いい写真だ)
「写ルンです」は持っていないがインスタグラムのフィルターで「写ルンです」があるのでそれで代用できる。
そんな感じで色んな人を抜かしたりすれ違って移動しているのだが、果たしてどういうことだろう。道がわからなくなった。
(あっている気がしない)
どうやら全く学習しないようでまた道に迷っているようだ。
(なぜだ。落ち着け。どこで間違えた。考えられるのは・・・・Y字路のとこか)
2択の道があってそちらを右に来たことで間違えたようだ。一応あっている可能性を考慮して進んではみているものの今回は間違っているという判断で大丈夫だ。行き止まりみたいなところに出たから。道はあるのだが明らかに玄人向けの道が続いていそうで俺としては望んでいる道ではなさそうなので引き返すことにしよう。
「はいいくよー。はい、チーズ」
「キャ!」
「ねぇ目つぶったかも」
ボランティアの方が修学旅行生の写真を撮ってあげている。やけに修学旅行生について触れているが、普段であれば沢山いるはずの外国人観光客が全くおらず、私服でいる日本人なんてほとんど一緒に見えるので、結果的に制服を着ている団体集団の修学旅行生が目に付くのだ。俺は写らないようにタイミングを見計らって分岐点であるY字路へと戻った。
(よし、左だな)
これで正規ルートに戻れた。あとはまっすぐ進めばいい。
歩いていると踏切が現れた。
(エモい!)
竹林の中に急に出てくる踏切に対して感慨深いものを感じるのは一般感情だと思う。鬱蒼とした林の中に人口的な踏切が作られているのだ。見事にその人工物は自然に飲み込まれている。人工物を見ているのに自然の一貫にしか見えない。まるで踏切が土から生えているのではとさえ思わされる。現にかなり多くの人がこの踏切の写真を撮っているのがわかる。
(さて、この先はなんだっけな)
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