9.嵐山へ


 特に寄るところも無いので来た道をそのまま戻って京都駅に到着した。嵐山に行くにはこれがまたややこしいところにある「嵯峨野線」に乘らなくてはならない。しかもホームが33番線となっていて、いかに京都駅に発着する電車が多いかを物語っている。京都タワー側の改札から入れば改札を入ってひたすら右に進むと嵯峨野線のホームにつく。あいにく俺は奈良線からの乗り換えなので少々遠い。かなり人が多いようで色んな人とすれ違った。


地元では確実に見ることの無い33番線という文字。都市なのだなと思わされる瞬間でもあるのは俺だけではないはずだ。


(なんか学生多い?)


なぜだか制服姿の若者が多い気がする。今の時刻は12時半くらい。下校には早いのではないか。短縮日課なのか、中間テストだったのか。知る術は無いので答え合わせはできない。

そんな若者を尻目に俺は電車を待つ列に並んだ。


「まもなく電車が到着します。離れてお待ちください」


音声がスピーカーから流れた。その後すぐに電車は到着して俺は乗り込んだ。少し変わった席の造りなのかもしれないと感じる。車両の前と後ろにボックス席が設けられている。山手線などでは有り得ない光景に少々興奮したのでさっそくボックス席へ着席した。1人ですけど。


(なんで車両前後にボックス席があるんだ)


不思議に思いながら、こちらも知る術は無いので答えは永久に謎のまま。ゲームだったらブチ切れてますけどね。疑問に思ったことが一生分からないゲームなんて嫌だ。折角の伏線回収が明かされないまま終える感覚に近いと言えばゲーマーはわかりやすいだろう。幸いにも俺はゲーマーだが現実脳とゲーム脳は切り替えて生きているので「ヤバいやつ」にはなっていない。


(ボックス席は景色が見えやすい。1人で乗るには実は結構いいのではないか)


嵯峨野線は京都の真ん中をひたすら北上して途中から西に曲がるので、京都の中心部を窓から拝めるのだ。所々登場するお寺などだけでなく、都市部としての騒々しくも活気がある姿が見事にマッチしている。お寺が街の一部として完全に溶け込んでいるのが伺える。


(ん〜素晴らしい)


電車の景色というものも見るのは面白いもので、スマホを見てデータ社会に没頭するのも楽しいけどもそれは通勤や通学にして、こういう所に来たら是非車窓から景色を眺めて欲しい。嵯峨嵐山までの約20分間ずっと景色を見てるわけではないけども。もちろん俺だってスマホも見るが普段電車に乗る時よりは何倍も景色は見ている。


「次は二条、二条」


どうやら二条についたようだ。京都の中心部に近いので数多くの人が乗ってきた。乗り換えの駅なのだろうか。それともただ利用者が多い駅なのかは不明ではあるが繁盛しているのは確かだ。席も埋まってきたようで普通は団体席であるボックス席にも着席する人が現れた。果たしてどんな人なのだろうか。


(ん~かわいい)


まさかの大学生くらいと思われる女性2人組でしかもかわいいと来た。彼女もいない悲しい男子大学生ではあっても一応男子大学生。可愛い人がいれば流石に意識します。気持ち悪いなんて思わないでください。健全な男子大学生なんです勘弁してください。

ですが、もちろんそれで声をかけるような人ではないのでご安心を。そんな超陽キャなわけないし度胸もない。自己肯定感の低さは自覚している。そういう人間なのだ俺は。

ナンパなんてしている奴の神経がわからないし、なんでそこまで自信があるのだろうか。本当に不思議に思うが、友達曰く頑張って強く見せれば強く見えるらしい。そんなものなのだろう。私には到底理解できない。


(目を合わせると気持ち悪がられそうだから音楽聞いて外見てよう)


改めて言おう。俺はこういう男だ。俺自身をあちらが意識するわけないのはわかってても俺が意識してしまい、その状況から逃避する。世の中の陽キャではない男子はわかってくれるのではなかろうか俺の気持ちや考えが。人は自分が思ってるよりも環境に溶け込んでいる。自分では気になることでも他人からすれば「気付かなかった」の一言で終わるのが当たり前の世界。変に意識しても相手は何も感じない。無意識の場合と何ら変わりがないのだ。本当にワンチャンス狙っているのならば受動的になるのではなく自分から声をかけるなり努力した方がいい。俺には関係ない話だが。


(さてと何の曲聞こうかな。旅だし。ゆるキャンの曲がいとおかしかな。やはり一期の曲の方がいい。とりあえずそれ聞くか)


自問自答の結果、亜咲花さんの「SHINY DAYS」に決定。これはアニメゆるキャン第一期の主題歌なのだが、ゆるキャンとは登場人物たちが「キャンプ」をする話で、よく旅をしている。なので、この状況ではベストマッチな選曲なのではなかろうか。俺の中では旅に1番合う曲だ。とりあえず俺はイヤホンを装着して音楽を聞きながら電車に揺られることにした。


「嵯峨嵐山~嵯峨嵐山」


(お、そろそろか)


危うく寝かけていて音楽を聞き始めて太秦あたりまで記憶が曖昧だ。


(結局曲聞けてないし)


この状況にベストマッチな曲を選んだにも関わらず意味がなかった。もうそれはどうでもいい。とりあえずこの電車から降りた。

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