第14話 初めてのエージェントと冬の時代

 シナリオライターが仕事を取るのに必要なのは"箔"と"実績"である。ある程度長く書いていればそこにコネも付け加えられる。

 では、初仕事を取るのには何が必要だろうか? 一般的には"箔をつける"ことがシナリオライターのキャリアを始める上での王道だといえる。だからたくさんの脚本家、シナリオライター志望者がコンクールに挑む。仕事が途切れないようなプロは(作家としての方向性を変えたい場合を除いて)コンクールに挑むなんてことはしない。箔はいま手掛ける仕事で付ければよい。

 前回、私が『S-1グランプリ』なる賞に応募したのも箔をつけるためだ。ただ、どうしても結果が出るのが待てなくて、何の実績も持たないまま私はシナリオライターの仕事を探し始めていた。つまり、"未経験"での採用の口を探したのだ。

 そこで私は大手転職サービスを利用することにした。その企業が大阪のオフィスにて相談会を実施するというので応募し、それまで執筆してきた40作ほどの習作を全部カバンに詰め込み、エージェントの前に山にして積んだ。

「す、すごい量ですね……」

 エージェントは呆れていたが、それだけ熱意があるし、しっかり脚本のことを学んでいるので未経験でも大丈夫だとまくし立てた。その場で担当をつけてもらえることが決まり、その人と協力して転職成功を目指すこととなった。


 転職エージェントを利用する際に皆さんに気をつけてほしいことが2つある。それは、『エージェントとケンカしないこと』と『ブレないこと』だ。

 私の転職活動は散々だった。当初はシナリオで未経験OKのゲーム会社に月あたり5件以上応募していた。しかしそのどれにも引っかからないとなると、エージェントは方針転換を促してきた。

「同じ未経験でも、一度ゲーム会社に所属していて業務の流れを知っていた方が有利に働く。デバックや品質管理の求人にも応募しませんか?」

 ハッキリいって遠回りはイヤだったし、そのような仕事に時間を使ってシナリオを学ぶ、書く時間が削られるのはリスクだと思った。実家で暮らして金策に明け暮れていた当時の暮らしと、ギリギリの給料でフルタイム働く生活では、成長の度合いがまるで違う。貯金が出来れば、その分働かずに勉強に集中できる。

 それでも一刻も早くシナリオライターとして雇用されたいと思っていた私は、エージェントの提案にしぶしぶ乗ることにした。なぜならもう31歳を迎えようとしていたからだ。若い人が次々と押し寄せる業界において、この年齢でのスタートは遅すぎると思っていた。可能性があるなら、若いうちに出来る限り手を尽くさないと手遅れになる。

 結果、シナリオライター以外の未経験職種でも、ゲーム会社は軒並み落ちた。その頃には前述のコンクールに落選していたことも知っていたので、とうとう私は精神的に腐り始めていた。

 次第にエージェントからの案件紹介や連絡も滞りがちになったので、私は彼が私など担当したくないんだろうなと思い、その思い込みが余計に自分の自尊心に傷つけて、エージェントと関わることすら億劫に感じるようになっていた。そしてとうとう、こんなことを訪ねた。

「私の転職が成功しないのは年齢のせいでしょうか? なら、何をしても無駄なのでしょうか? シナリオの賞などいつ取れるかなんて分からないので、今からでもプログラミングやCGなどを学んで、その道で食えるようになってからシナリオ職への転換を目指す方が堅実でしょうか? だって、ゲーム会社に一度勤めた方が有利に働くと言ったのは、あなたなんですから」

 私がエージェントの立場だとして、こんなことを言ってくる奴がいたら、本当にもう担当したくないと思うだろう。だって、『あなたが言ったから』などとエージェントに責任転嫁して、自分の進路を変えようとしているのだから。

 その後、数度エージェントとやり取りして、お互いの関係が冷え切った後に、私はまた孤独にコンクールに挑むことにした。やっぱりシナリオライターになりたいし、それ以外の仕事に就くために時間も努力もしたくなかった。

 「これだけ頑張っているんです。弁天様。芸能の神様なら、この哀れなクリエイター志望者にどうかご慈悲を……」

 自らが修復を手掛ける竹生島宝厳寺観音堂……の隣にある竹生島神社に奉られる弁天様に、始業前、終業後に、必ず手を合わせて帰る。事故なく仕事を終えられる願いと感謝、そして一刻も早く救われるのを夢見て……

 その冬に挑んだコンクールも、選考落ちした。


※超余談だが、そのエージェントに「ソシャゲのシナリオに携わりたいんだけど、何のゲームがおススメですか?」と聞いたら、色々勧められた中に『プリンセスコネクト Re:Dive!』があった。それがキッカケでプリコネを始めて、この記事を綴っている今日まで続いている。明日にはプリフェス天井できそうだ。ぐへへ……

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