第9話 ゲイバーに行きませんか?
シナリオセンターに通う人は、大概は社会人です。例外として中学生の女の子を見かけたぐらいで、あとは高齢の方から大学生ぐらいの方が中心となっています。
ですので授業が終わったら皆さん自分の生活に戻るために、蜘蛛の子を散らしたようにスーッと帰ってしまいます。
(……もったいないっ!!)
高校を卒業していない、しかもずっと日陰者の私にとって、同級生とワイワイできるのは夢でした。シナリオセンターは厳密には学校ではないとはいえ、少なからずそういう機会もあるかなと思っていたのに……何もそういった繋がりがないっ!
なんとか自分発信で何か出来ないかなと思っていましたが、根が陰キャなのでそういうことも出来ずに引き下がり、いつしかズルズルと課程は後半戦に……そんな折、
「シナリオライターにとって取材は大事です。近松門左衛門は"虚実皮膜論"というものを唱えましたが、つまり現実にありそうなことと嘘の出来事を丁度良い塩梅に織り交ぜることが肝心なのです。その現実まで嘘になってしまったら作品は根底から揺らいでしまいます。必ず題材の下調べを行ってください。インターネットだけではなく、書籍、インタビュー、新聞、あらゆるものを活用しましょう。一番良いのは"現地に足を運ぶこと"ですね。例えばですね、うふふ……♪」
女性の講師だったのですが、授業中に突然一人笑い出して、
「以前にいた生徒さんでですね。何でも体当たりで取材に行くタイプの人がいまして。その人がゲイバーに興味があるからと、他の生徒さんや先生まで誘っていたのを思い出したら、なんだか笑えてきました。ああ、おかしい♪ でも、あれだけ貪欲になんでも吸収したいという人が伸びるのでしょうね」
(こ、これだ~~~~っ!!)
この学校らしいことでみんなでワイワイできて、しかもレベルアップできるとなれば、みんなついてきてくれるはず! と思い、私は授業終わりにダーンと立ち上がった。
「みなさん……よければ、ゲイバーに行きませんか!?」
一同、総ぽか~んでした。
「……やっぱいいです」
またもや私は引き下がりました。
結局、ゲイバーは一人で行きました。
しかしながらこんな目に遭っても、現在でも私の体当たり取材精神は続いています。
コロナ禍になってからは流石に制限するようになりましたが、とある題材の着想を得るために淡路島を自転車で一周したり、沖縄に9日滞在して離島にテント張ったりしたのはいい思い出です。
現地に赴くことで得る着想や気づきもありますので、これからライターを始められる方も出来る範囲で取材旅行を実践するのをおススメします。今のご時世、厳しいかもしれないですが。
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