第17話 ゲーム制作という三足目のわらじを履く

 実家に出戻った理由の一つが金策である。実家に住むと生活費を極力抑えられるのもあるが、何よりも当時は地元の竹生島宝厳寺観音堂改修工事という、漆職人歴約10年の私にとっては大阪などの都会で一人暮らししてアルバイトして暮らすよりもよっぽど割のいい収入口があったから、それを目当てに恥を忍んで実家へと出戻ってきたのだった。しかし2019年12月をもって漆職人の出番は終了してしまった。後は茅葺屋根だとか彩色だとかの手が入るだけで、私たちは完全にお払い箱となった。本当に漆塗り職人の世界に戻る覚悟があるのなら他の現場を求めてまた転勤族のような暮らしをすればいいのだが、私はもう覚悟を決めてシナリオの世界に飛び込んだので、竹生島の仕事を漆の仕事として最後と決めて、生活が苦しくなろうと後はアルバイトをしながら食いつないでいこうという耐久戦に突入することになった。

 それゆえに竹生島の工期が終わるまでに何とかゲーム会社に潜り込めないかあれこれ画策していたのだが、結局コンクールも転職エージェントでも何も成果を残すことが出来なかった。そうなると、「根本的に自分に実力が足りない」と自覚せざるを得なくなり、そのうちシナリオセンターだけで身につくスキルだけでは物足りなくなった。

 私は2019年の5月頃から、オンラインスクールのゲーム制作コースを受講することとなった。以前に転職エージェントから、「シナリオ職を直接狙いにいくだけじゃなくて、何でもいいから一旦業界を経験しておくというのもあり」と説かれたことや、研修科で知り合ったクラスメイトがシナリオセンターに通いながらCGの専門学校にも通って見事3DCGアニメーターになったという要因が後押しして、「シナリオライターながらゲーム自体も作れる!」という箔をつけようとしたのが理由である。ちなみに私はシナリオを学ぶ前はコンピュータ専門学校HALのゲーム制作学科で半年間ほど聴講生としてプログラミングを学んでいたので、ゲームを制作すること自体はあまりハードルが高くないと高をくくっていた。

 おまけに昨今はUnityやUnrealEngineなどのミドルウェア……大雑把に説明するとゲームを作るためのソフトが普及していて、1,2か月プログラミングを勉強すれば素人でもオリジナルのゲームを作れるほど恵まれた環境に変貌していた。

 私は「通勤時間すら惜しいから」と、家に近いという理由だけで養護介護老人ホームでアルバイトをすることになり、仕事以外はほとんどシナリオとゲーム制作に時間を費やすようにした。計算外だったのは、老人ホームでは夜勤を受け持つと給料が上がる上に仕事中でもある程度自分のために時間を使うことだ許されていたので、私は自分のパソコンを持ち込んでシナリオを書いたりゲームを作ったりして最大限メリットを享受していた。ちなみに私が一番最後に作ったものは、発語障害を発生させてしまい全然意思疎通できなかったお爺さんのために作った、画面をタッチすれば「おはよう」とか「ありがとう」とか「リモコンを取ってください」とか喋ってくれるアプリだ。

 最後の作品は置いておいて、一番最初に作ったものは、オンラインスクールの課題のために作った簡単なゲーム……泣いている赤ちゃんにガラガラや哺乳瓶などを持って行って泣き止ませるというもので、2019年夏ごろにAndroid端末向けにGooglePlayにてリリースした。

 その後、『逆転裁判』に影響を受けていた私は、「ノベルゲームが作りたい」と、わざわざUnityでノベルゲームを作れるアドオン(後付けの仕組み)を導入し、『ビックリカツのカッちゃん』という作品をブラウザゲームとしてリリースした。このシリーズに全て目を通して下さっている稀有な方なら見覚えのあるタイトルかもしれないが、本作は私が研修科の課題として執筆して、私のことを『侍』と呼んでいたクラスメイトのおばちゃんから「この話を聞いてたら涙出てきそうになった」と褒めてもらえたことに気を良くしてコンクールに応募したら三次選考落ちしたといういわくつきの作品だった。「三次選考まで通ったのなら面白くないことはないのだろう」ということで、ゲーム向けに分岐などを付け足してノベルゲームに仕上げる。プログラムも演出も絵も全部自分で手掛けたので、リリースした頃には2019年が終わっていた。

 その二つを引っ提げて未経験求人に応募してもどこにも引っかからなかったので、「もっとスマホゲー的なものを作ればいいんだろ!」とやけくそ気味に、RPGチックな小規模ゲームをGooglePlayにて配信した。内容はバトルだけなのでハッキリ言ってシナリオライターが作るようなものではなかったが、必殺技や回復魔法とか実装した時は結構夢中になって楽しんだ。その際、ロゴデザインを東京でアニメーターをやっている元クラスメイトの友人に頼んだ。1万円という激安価格で頼んでしまって、今となっては2,3倍出してあげればよかったと軽く後悔している。


 そうこうしている内に2020年も秋に迫り、33歳という三十路ど真ん中に突入しようとしていた私は、巷で聞く『35歳プログラマー限界説』におびえながら、「自分は何をしても何の成果も出せないのか……」とか「ずっと介護の仕事を続けるなんてイヤだ。だけど今さら他の業界を目指すなんてことも出来ない……」といったような悩みに葛藤しつつ、それでも耐え忍んでシナリオやゲームを作り続けていた。

 頑なになった心の殻の見えないところから、今にも羽化しようと亀裂が入っていることに気づかぬまま……



補足:

上記のゲームへのリンクを記載させていただきます。

どれも10分程度で飽きてしまうような作品ですが、もしよければ私の努力の足跡をご覧いただけると幸いです。


『ビックリかつのカッちゃん』

https://unityroom.com/games/bikkurikatsu


『トレジャークエスト』

https://unityroom.com/games/treasurequest

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