シナリオライターになるまで【シナリオセンター大阪校思い出語り】

カバかもん

第1話 事の始まり

たしか2017年の早春の頃、大阪駅前、大江橋の上である。

「”いつまで結論延ばしてるんですか?”って、その言い方はあんまりとちゃいます? あんたらがこんなに何度もしつこく電話かけなかったら迷わずにすむんですわ。その度に”何日までに結論をお待ちしています”なんて言われたら、まだ間に合うのかなって期待してまいますって。でも、僕もう本当に懐事情が厳しんです! すぐにでもお宅に入学してシナリオライター目指して勉強したい気持ちはありますけど、こっちにはこっちの事情があるんですって……迷わずにいられへんこっちの事情も少しは考えてくださいよ!?」


どっぷりと夕日が沈んだ後の寒空の下、交通費の出ないアルバイトの帰り道、厳しい懐事情を少しでも和らげようと一駅、二駅分歩こうとしていた最中にその電話はかかってきた……ふた月ほど前に入学見学に赴いた専門学校からの案内だ。その専門学校には週に一度の通学で済む社会人コースがある。ほんの少しでも自分の好きな業界で仕事にありつく機会が欲しかった私は、交通費すらもらえない日雇いバイトに身をやつしているにも関わらず、身の程知らずにも自費で専門学校に通おうとしていた。そのコースとは、『小説家、シナリオライター コース』だった。


「もうイイですわ。あんたらシツコイ! そんなごうつくばりのところによぉお世話になれませんわ。もうお宅への入学は諦めますんで、二度と電話かけてこんでください。今までご迷惑おかけしました!」


それまでのフラストレーションをぶつけるように電話を切った……今思い返せば大人げない対応だったと思う。だけどそれだけ当時の私は切迫した状況に置かれていた。30歳手前。家業を10年近く手伝い、『これは俺の生き方じゃない!』『人生を自分の手で取り戻す』をスローガンに家出同然で実家を飛び出してから早2年。好きなことを仕事にするまで帰らないと心に決めたものの、先立つのもがなければ何も出来ず、何の成果もないまま食うや食わずのフリーターとして三十路を迎えようとしていた。

好きなことで食べていくため、それまでの蓄えにものを言わせてあらゆる分野に挑戦していった。プログラミング、CG、マンガ、サービス業……興味のあるものは全て。しかしどれも『一生その仕事をして生きていきたい』と思うことはなかった。あらゆるものに挑戦した後、『シナリオライター』の職だけが残った。

私は好物を1番最後に残して食べる派だった。思い返せば小学生の頃、初めて描いた将来の夢が、『ゲーム会社でお話を書く人になる!』というものだった。それ以外の目標は、すべてその夢から派生したものに過ぎなかった。私は外堀を埋める作業に集中しすぎるあまりに本丸を攻めるという肝心なところは避けてしまっていた。なんてバカなことをしたんだろう……まだ貯金のあった頃にシナリオライターを目指していたら、あの学校への入学を諦めずに済んだのに……

しかしながら、あのような数日おきに営業電話をかけてくる拝金主義な学校に通わなくてよかったと思う。思うのだが……他に行く宛てもなかった。

心細さを紛らわすために、すぐにでも新しい学校を探す必要があった。

それも、こんな自分でも通えるぐらい、安くて、確かで、信頼できるところを……

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