第11話 目的地到着
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「せめてハイカーの振りしてくるとか、そういうのなかったのか?」
黒澤の後ろでぜぇぜぇと息を切らしている梓を心配気に見つつ、彼は尋ねた。彼女は絶え絶えに声を漏らす。
「うっさいわねぇ、…、こんなとこ来る予定じゃ…、なかったのよ」
「そか、頑張れよ」
たった数キロという道のりを彼自身遠く感じ、ブーツで草木の生い茂る道をしっかり踏みつけ乗り上げる。
既に板で組まれた簡易舗装もほとんどなく、斜面ばかりの道を梓が数回滑りそうになったが、ようやく目的地を見下ろせるポイントにたどり着いた。
先の空地を中継場所にしたおかげか、微弱だが無線は通じるらしく梓の元に報告が入った。町の飲み屋へ捜査に向かった別チームからの連絡があったが、収穫はなかったようだ。
「町で収穫がなかったってんなら、あの小屋がやっぱり怪しいわね」
梓は岩山に片足を載せて肘を付き、眼下に広がる風景を眺めた。双眼鏡を取り出し、小屋にピントを合わせている。
黒澤も同じように小屋と周辺を見下ろしているが、見たところ人の気配は感じられなかった。森に入ってきた時より、わずかだが陽が陰ってきている。あまり時間は掛けられないだろう。
「あの小屋が黒澤藤吾の縄張り?」
梓が訊いた。
「おそらく。あの事だと思う。俺はここまで来るのは初めてだが…。縄張りにしちゃ威厳とかそういったもんがないような…」
黒澤の言った通り、それは本当にただの小屋で、お世辞にも居心地が良いとは言えないほど老朽化しているように見えた。
本当に人が寝泊りしているならもっと手入れされていてもよさそうなものである。
小屋よりも周辺に組み立てられたパイプテントのほうが幾分心地よさそうに見えた。近くに焚火を組んだ後があったが、火は消されており煙も上がってなかった。つまり、誰かが居たには居たのだ。
「誰もいないようだから、今のうちに捜索しましょう」
梓はそう言って威勢よく飛び出し、見事に斜面を滑り落ちて行った。
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