第4話 まじめで真摯に生活している ふう

 黒澤自身、この町出身だ。主に父親と森に入り、狩猟や林業に関わってきた。

 父が最近引退したので、別の商会と共同作業をすることも増えたが、仕事量も稼ぎもあまり変わらなかった。裕福なわけでも貧しいわけでもない。


 一方、彼の父親は引退してからはほとんどの時間を自身の小屋で過ごしていた。丸太を積んで自分で建てたらしい。


 現役の頃からトラブルを呼び込む人間で、別の商会の人間としょっちゅう揉めては幾つもの生傷をこしらえて帰ってくる、野犬のような男だった。


 かといって町人から息子である当麻への当たりが強くなるということもなく、子供の頃から同情されることが多かった。


 黒澤が若い頃から働きに出る姿を見ていた町人の間では「問題ある父を持ったが、まじめで真摯に生活している立派な子」というふうに映ったらしく、よく声をかけられた。黒澤はそのたびに、「まじめで真摯に生活している子」を演じた。それが小さな町でラクに生きる方法だったからだ。


 そんな黒澤が町を出ようと思ったのは数年前だった。


 当時最新の設備を揃えようと、通信端末で複数の企業の備品をリサーチしていた。目に留まった幾つかの企業がメトロシティに店舗やショールームをかまえていたので、彼は現地を訪れることにした。

 企業のヴァーチャル空間で製品案内をしてもらうこともできたのだが、いかんせんこの町からだと通信料が高額になる。エリア内外だと、通信環境すら大きく異なるのだ。


 どうせ似たような出費になるなら行ってしまえば同じことではないか。そう決めてバスと電車に揺られて4時間。巨大なターミナルステーションで浮上式鉄道に乗り換えてさらに1時間経つと、目の前には想像を超える姿でメトロシティがあらわれた。


 慣れない移動の疲れも一気に消し飛んだのを覚えている。


 洗練された街のデザインの中に漂う武骨さ。華やかさと同居する危うさ。道一本変えるだけで全く違う景色。聞くと見るとでは大違いで、それはまるで望遠鏡から眺めていた惑星に降り立った気分だった。ここが世界の中心であると思えた。

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