第5話 メトロシティは別格だった
なにより目を引いたのは、なんの違和感もなく街を歩くオートマタの存在だった。
自分の町には存在しない代物だ。頭上に円環を掲げている以外は自分たちと変わらない姿で歩いている。
見つめていると、目が合った。黒澤は息をのんだ。それはいっさい瞬きをせずに黒澤に微笑んでみせた。マシンの口角筋のパーツが吊り上がっただけなのに、悪い気はしなかった。それがどういったプログラムでこの動作に繋がったか、黒澤はとても知りたくなった。
彼は目的である設備備品のためにショールームへ向かったが、気持ちはどこか上の空だった。企業から製品説明をうけた後、担当に「設備購入を検討する」と告げ、ビストロで一休みしつつメトロシティの求人をチェックした。
その多くがオートマタに関係するもので、黒澤はどういうわけか自分の仕事に危機感を持った。こんな機体が日常的に動いて機能してるなら、いずれ自分の仕事は消滅する。同じエリア外でも、観光都市であり、わざと素朴さをウリにしているテグストルパールクと自分の田舎では雲泥の差があった。
メトロシティへ移ろう。
そう決めたのはその時だった。変化がほしかった。”まじめで真摯な黒澤当麻”卒業する時が来たのだと、ガラにもなく感じた。
それから今日まで少しづつ引っ越す準備をしている。メトロシティには既に新しい借家と勤め先の目星をつけてある。
ここでの仕事は父親の道楽みたいなものなので、自分が辞めても問題はない。父も父で、放っておいても生きていける男だ。置いて行って困るものはない。
引っ越しするのにあたって、捨てられるものは捨ててしまおうと、黒澤は家具を片っ端から処分していた。今座っているソファとラグ、テーブルとラジオしかリビングには置いていない。
キッチンやバスルームには生活するのに最低限のものしかおいておらず、自室の家具もだいぶ減らした。あとは自分が引っ越した後に、父親がここに戻ってきたなら好きにすればよいのだ。それは伝えてある。
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