第21話 そして現在 ガレージにて
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「ってことがあった後、晴れてメトロシティに来たんだ。高見さんに会って、今に至る」
そう言った黒澤をよそに、高見と日向は目を見合わせてヤレヤレとため息をついた。2人の反応が予想外だったのか、黒澤は大きな瞳をしばたかせた。
「え?なに」
「もう、そうじゃないんですよ、黒澤さん。私たちが聞きたかったのは梓さんとの恋バナだったのに。話がぜんぜん違うじゃないですか」
「え?」
唇をとがらせて高見が不満を漏らした。身を乗り出して言ってくる。
「私が聞きたかったのは、プロポーズの言葉とかシチュエーションのこと! 仕事の話じゃなくて! きゅーんってなるような恋バナ!」
どういうわけか日向も「うんうん」と頷いている。補足するように口を開く。
「このカタブツにロマンスを期待した私が馬鹿だったわ」
「あんた達は、全く…」
黒澤が呆れ声を漏らして、頭を抱えた。本当に性懲りもない2人だ。女3人いれば喧しいとは言ったものだが、高見と日向がいるだけで煩わしい。日向は足を組み替えて話題を変えた。
「でも、お父様の話は意外だったわね」
「そうか?」
「ええ。あなたと全く真逆といってもいいわ。しかしもっとお酒でも飲んでくれたら、もっと面白い話がきけたかもしれませんのに……。お父様はいまどうしてらっしゃるの」
日向はそう言いながら、瓶ビールの栓をあけた。丁寧にグラスに注ぐ。彼女は、瓶ビールがどんなサイズでもそのまま飲むといったことはしない。
「さぁ、死んでないことは確かだよ」
「話の黒幕は?」
「それも結局わからず終いだったんだ。”タブレット”はジャンキー達に人気があったけど大量生産ができなかったから、あのヤマはそれきりだったらしい」
「へぇ、それは残念ね」日向はそう言って足を組みなおす。すると、しびれを切らしたのか高見が横から口を挟んだ。想像とは違った話の内容に、まだ納得していないような顔だ。
「もう、恋バナ聞かせてくださいよぉ。あーあぁ、一度でも、黒澤さんをベロベロに酔わせてみたいな。そしたらベラベラ喋ってくれそうなのに」
「あいつにでも飲ませとけよ。どうせザルなんだろ」
「ええ。一度飲むと際限なく飲み続けますからね。だから琴平に制限されてるんですって」 日向が補足した。
「子供か」
そう言って、黒澤は彼が寝ているフロアの方を一瞥した。まだ大人が寝るような時間でもないが、彼にそういった枠組みは通用しないらしい。
「ま、私は次の仕事が終わったら伊野田さんと飲みに行きますから、黒澤さんも行きましょうね」
高見はそう言って、胸の前で両掌を合わせるが案の定、彼は一蹴した。
「いやだよ、あいつとなんて」
「それで今の奥様とは? なにがあってご結婚まで至ったのかしら?」
日向が面白がるように黒澤の顔を覗き込んだ。
黒澤はバツの悪そうな顔を見せて鼻から息をもらしたあと、カップを持ってキッチンへ向かって行った。
日向と高見は顔を見合わせる。
「あの人、……耳まで赤かったわよ」
「黒澤さんも、カワイイとこあるんですね」
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