第16話 応戦開始
「まったく、あんたは……! 少し落ち着け」
「現場でこんな状態になったの初めてだから少し混乱してるだけよ!」
「俺もこんな状態はじめてだよ。はやく応援呼んでくれ」
「こんなしょっぼい田舎事件に、すぐ応援が来るわけ無いでしょ」
「怠慢保安官どもが……」黒澤はそう毒づき、周囲を確認した。
明らかにこのテの捜査に慣れてない梓が来たのは下っ端だからもあるが、あまり詳細を突かれると困る人間が上にいるからだろう。
その上の人間と自分の父親に何かしらの繋がりがあるなんて馬鹿げてるが、やって来た保安官の手際の悪さを見ているとあながちあり得ない話ではないと思い始めてきた。
「とにかく追うわよ!」
「待て、あんたは勝手に動くな!」
立ち上がり再度駆け出そうとする梓を制止しようとするも虚しく、彼女はテントの裏に駆け出そうとするが、彼女の身体が地面に転がった。
テントの裏から女が飛び込んでくる。最初に逃げた女がタックルしたのだろう。もう数時間で日が暮れる頃だ。車が動かないとわかれば無暗に森に逃げ出すのも危険と考え、先にこちら2人の動きをある程度封じる作戦に出たようだ。
そう結論を出しているうちに、黒澤はテントの中に転がっていた。先ほど影に隠れた男だろう。いつのまにか背後にいたのか、そいつに投げ飛ばされたらしい。
「そっちは自分でなんとかしろ!」黒澤は受け身を取り、体勢を整えながら梓に向かって叫ぶが、応戦しているのか反応はない。
黒澤は目の前に飛んできた何かを振り払って、距離を取った。飛んできたのはフラスコらしく、足元にはたき落され粉々に割れていた。”調理屋”の男は興奮気味に肩で息をしながら、おそらく作業台に置いてあった大きなヘラのような何かを構えている。ナイフほど殺傷力はないだろうが、当たり所が悪ければ皮膚くらい簡単にめくれるだろう。
相手が取っ組み合いの素人だからこそ、慎重にならねばならなかった。素人はその危険性について考えられないからだ。
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