第15話 どうしようもない立ち回り

 意気揚々と3人に突進していく梓を止められず、黒澤は舌打ちしながら茂みから飛び出した。彼女より派手に登場しないことには3人の意識をこちらに逸らせない。


 だがそれすらもぶち壊す形で、突進していた梓が転がり転倒した。

 3人の、目の前にだ。


 突然目の前に保安官の制服を着た人間が姿を現したのだから、3人は当然驚いた。一番反応が速かったのは作業服の女で、男2人がとぼけている間に1人車の方へ駆け出した。

 

 虚を突かれた男たちはまだ行動を起こせないでいる。そう判断した黒澤は転がった梓をとび越え、女を追いかけた。一目散に車に乗り込んでいるが、黒澤は車に向かってボウガンを構える。古い車だ。おおよそ安い中古車をろくに整備せずに乗り回していたのだろう。所々劣化が目立つ。瞬時に狙いを定め…。


 放たれた矢は左後輪にめりこむと、みるみるうちに空気を奪っていった。それでも車の動きを止める事ができるわけではない。間髪入れずに矢をセットし、今度は左前輪を狙う。


 車の速度が上がらないため、黒澤にとっては止まっている標的同然だった。いとも簡単に前輪も射貫くと、車は左に傾いて動きを止めた。車内で女が慌てているのが見えた。パニックになっている。放っておいても数分は時間が稼げるだろう。


 黒澤はテントの位置にまで駆け戻る。相手はただの”調理屋”で戦いのプロではない。自分もトレーニングをしているだけだが、少なくとも3人よりはこういった状況に対応できると自負していた。


 保安官である梓もそうであってほしいと思いつつ、テントへ回り込むと、小さい悲鳴が聞こえた。彼はすぐにボウガンを構えるが、男が1人倒れていくのが見えた。梓がテイザー銃で麻痺させたらしい。


 これで2対1にはなったが、いつまでもこの形勢というわけではないだろう。女がいつ飛びかかって来るかもわからないし、もう一人の男が影に隠れたのが見えた。梓が後を追おうとしたが、自分が地面に転がした男に躓き派手に転倒した。黒澤はため息を飲み込んで彼女に駆け寄り、身体を起こしつつ声をかけた。


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