第17話 その結果
男が駆けこみ、ヘラを振り上げてくる。
広くはないテント内だ。身体の大きい男は一歩で黒澤の間合いに入り込む。身をかがめて一打をかわすと、黒澤は身を屈め作業台の下から反対側へ素早く転がり込んだ。立ち上がりざまに床に放置されていたロープを掴む。
おそらくテント設置時に余ったものだろう。金具が残ったままだ。それを勢いよく男に向かって振り上げた。実際には男に向かってではなく、男の背後のラックに乗っていた大量の粉袋を目がけていた。
先端がドスリと袋に突き刺さる。
ロープを操り、袋を引き裂くように金具を滑らせると、裂け目からこぼれだした大量の白い粉末が男に振りかかった。
驚いて体勢を崩した男めがけて、黒澤は作業台に飛び乗った勢いのまま、男の顔面に膝を打ち込んだ。とはいうものの、黒澤の軽い体重からではたいした威力にはならず、男を転倒させるだけで済んだ。
粉まみれで昏倒している男をすぐさまロープで縛り上げ作業台に括りつけたあと、黒澤はテントの外に飛び出した。
そこでは2人が揉みあいながら地面を何度も転がっていた。梓も女も必死に何か叫んでいるらしいが、もはや言葉にもなっておらず、見かねた黒澤は半眼になったままゆっくり2人に歩み寄った。
どちらも気づいていないらしい。”調理屋”の女が奇声を挙げながら梓に馬乗りになったところで、黒澤は本当に軽く、女を蹴とばした。ブーツの底で触れただけの感覚だったが、女は簡単に横に転がった。
梓はすかさず立ち上がり、意気揚々と女に向けてテイザー銃を構えた。「お縄になりなさい」とか「観念しなさい」とか言っていたような気もするが黒澤は既に聞いてなかった。
最初に気絶した男が目を覚ましそうだったので、引きずってテント内の作業台に括りつけた。作業を終えて振り返ると、不服そうな顔をした女が梓に連れられて入ってきた。
女は黒澤を見下しつつ、括られた仲間の男たちを見て顔をゆがめた。”なんでこんなチビな男に全員のされたのだ”と信じられないような顔をみせ、しぶしぶ梓に従っている。
調理屋の3人を前にし、梓は腰に手を当て言い放つ。身体中に落ち葉やら枝やらがついていたが、気にしていないようだった。
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