第12話 こいつ本当に保安官かよ


「あんた、本当に保安官?」

 滑り降りてきた黒澤は、呆れた声でそう言って梓の腕を引き上げた。彼女はむっとした顔で反論してくる。

「うるさいわね、森には慣れてないっていったでしょ」


 それを無視する形で黒澤は周辺を観察した。ここだけ人為的に開拓したかのように木々が開けている。小屋が作れるくらいなのだから当然なのだが、不自然にまで大きいパイプテントがやけに怪しく、彼は梓に合図を送った。


 彼女は小屋の中を覗き込んでいるが首を横に振りながら戻ってきた。何も見つからなかったらしい。2人とも構えた姿勢のままゆっくりテントに近づく。


 パイプテントは3つ設置されており、どれも中を隠すように分厚いビニールカーテンで囲われている。その1つのカーテンを慎重にめくり、中に踏み込むとそこはまるで化学実験室のように器具が並べられていた。

 ランプにフラスコ、ビーカーにバット。横には試作品だろうか。形のまばらな錠剤がいくつも転がっている。梓はそれを摘まみ上げながら黒澤に向き直った。


「これは驚きね…。あんた、本当になにも知らないの?」錠剤をまじまじと見つめている。

「知るわけないだろ。もし俺の親父がこんなもんに関わってるって知ってたら、あんたらに教えない。隠し通すに決まってる」


 テント内は無人だった。この設備を残して長時間無人でいるなんてことはないだろう。いつ誰が戻ってきてもおかしくない。小屋は良いとしてテントは3基ある。誰かが縄張りにしているなら1人や2人では済まないはずだ。


 すると、遠くから枝葉の折れる音が聞こえてきた。それが車のタイヤが踏みつけた音だと察知するのと同時に、黒澤は咄嗟に身を屈めた。



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