第10話 森へ

 車が動き出し、タイヤが砂利道に乗り上げると車体は大きく揺れた。道幅は狭く当然舗装もされていない道をロースピードで進むこと数十分。車は森の開けた空地で停車した。


 梓が不思議そうに周辺を見まわし、黒澤に問いかける。

「どういうこと? この先は行き止まりじゃない?」

 すると、彼は半ば呆れた声色で返事をした。


「おいおい、あんたらまさか、地図の目的地まで車で行くつもりだったのか?」そう言ってマップの目的地を指ではじいた。


 簡易機的なマップなので、詳しくない者が見れば道があると誤解するかもしれない。しかし、森に何度も出入りしている黒澤や、先の小屋をねぐらにしている彼の父なら”この先を車で通ろう”など微塵も思わないだろう。


「観光用のコースがあるとでも思ったか?この車でこの先進もうったって無理な話だ。降りてくれ。こっからは歩きだ」

「なによそれぇ、出る前に言いなさいよ」

 梓は悪態を付きながらしぶしぶ車から足を伸ばした。運転していた男も困った顔をみせていたが、仕方なしに車から降り、荷台から荷物をおろした。黒澤も小型ボウガンを背負い車から飛び降りると、マップ片手に方角を確認し、行き先を指示した。


「地図によると、目的地はあの向こう。ざっと2キロくらいだな」

「げぇ、この道を2キロ?」

 梓は声色を低くして不満を漏らしたが、無線の電波を探っているのか手元でなにやら操作している。


 道という道はなく、板で組まれた簡易的な歩道が見えるだけで、それも先へ行くほど劣化しているように感じた。鼻から短く息を漏らし運転手の男へ「ここを中継ポイントにして通信を絶やさないように」指示をして黒澤に向き直った。


「さ、行きましょう」

腰に手を当てて梓が言った。

「2人で?」

「なんで不満そうな顔なのよ」

「不満だよ。あんただけだと心配だ」

「想定外の出来事なんだから仕方ないでしょ、なんかあった時のために彼にはここにいてもらって町との中継役やってもらうから私とあんたで行くわよ」

「上手くいかないような気がしてきたのは気のせいじゃないよな…」


 黒澤はそうぼやいて、彼女を無視するかのように道を進んだ。ここから先は黒澤自身あまり足を踏み入れないエリアだ。オフロードバイクがあれば直ぐなのにな、と彼は思った。

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