第8話 灰色、青色、再登場

 ”彼女”は黒澤の前で立ち止まるとハットを人差し指で押上げて、厳しい目つきで彼を見下ろした。黒澤が訝し気な顔をすると、彼女は黒澤に尋問した。


「あなた、黒澤藤吾くろさわとうごの親族?」

「彼は俺の親父ですが」

「へぇ、なるほどね。彼を匿ってるんだとしたら、それはあなたのためにならないわよ」

 いやに回りくどい言い回しに、黒澤は顔をしかめた。


「よくわからん襲撃といい、保安官といい……。いきなりやって来て、なんなんだ一体」

「黒澤藤吾に違法薬物取引の疑いがかかってる」

「あのクソ親父…、やっぱてめぇの仕業じゃねぇか」

 黒澤が握りこぶしを作ってぼやくのを半ば無視して、彼女は話を続けた。


「あなたは?」

「黒澤当麻。その黒澤藤吾の息子だよ。けど、その疑惑とは全く無関係だ。ここに親父はいない」

「そう。それは仕方ないわね。あなた、協力してもらうわよ。昨日私の邪魔したでしょ」

「はあ?」


 黒澤が素っ頓狂な声を上げると彼女はハットをとり、髪をすくって見せた。黒澤はようやく、彼女が昨晩路地で遭遇した派手な女だと気が付いた。彼女はついでにIDを提示した。そこには”三木本 梓”と表記されていた。


「あんた、保安官だったのか?」

「そうよ。昨日、あのガキどもから情報をゲットするチャンスだったのに。通りがかりであんたが邪魔したのよ。なんだってあんな路地通るのかしら」

「近道したんだよ。そっちこそどうして、昨日の今日で俺の家に押しかけて来たんだ」

「昨日、あんたのせいで私の正体がバレそうだったから、”あの男があやしい”って吹き込んどいたの。そしたら偶然にも奴らのお仲間が割り出した家が、私たちがマークしていた黒澤藤吾の家だったってわけ」

「ふざけたことしないでくれ」

「おかげでこちらは助かったわ」

「こっちは迷惑だよ」

「協力してくれたらお礼金がでるけど?」

「……いくらだ?」


「へ?」 黒澤が即答したことに拍子抜けしたのか、梓が気の抜けた声をあげた。

「ボランティアはしない主義なんだよ。それにこっちは窓ガラス割られて被害もでてるんだ。払うもんは払ってもらう」


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