第20話 相談(中編)

「え、此処が真中君の家…?」


 海斗は目の前に広がる大きな家を見上げた。形はシンプルで、白い四角形を組み合わせた様な形をしていてとても清潔感があった。


「う、うん。えっと、つまらない物しか出せないですが」


 そう言って侑人は何処か照れながらも、海斗を家へと誘導する。

 すると玄関前には空港にある様な金属探知機を探すゲートの様な物があり、2人はそれを通った後、中へと入って行った。






 ガシャッ


「ッ!」

「ど、どうかしましたか!?」


 千春は少し耳を抑えて、痛そうに耳からイヤフォンを取った。


「少しイヤフォンが壊れてしまった様です」

「大丈夫でしたか…?」


 凪は眉を八の字に変えて聞いた。


「まぁ、ある意味大丈夫ではないですかね…」


 先程まで笑っていた千春の顔から笑顔が消えた瞬間だった。






「さっきの門みたいなのは何だったの?」


 海斗は不思議そうに聞くと、侑人は少し申し訳層に頭を掻いた。


「あ、あれは、電波を妨害するゲートだよ、簡単に言えばだけど…」

「え、何でそんなのが真中君の家に…?」

「じ、実は僕の家って、代々ボディガードをやるのが仕来りで、そういう物を持って来させない為なんだ…」

「ボディガード…てことは…真中君も?」

「うん…一応僕もボディガードになる予定だ…こんな陰キャだけど…」


 侑人の実家がそんな職業だとも持っていなかった海斗は、咄嗟に反応することが出来なかった。

 見た目はオカッパで眼鏡を掛けているし、猫背。侑人の見た目からはボディガードなど想像する事が出来ずに居た。


「ははっ、やっぱり、信じられないよね…」


 少し悲しそうに海斗から目線を逸らした侑人。その反応から海斗は思い出す。

 見た目からは判断してダメだと、最近の海斗が学んだ事だった。


「そ、そんな事ないよ!」


 海斗はどもりながら声を大にして叫ぶ。


「海斗君と話したのが今日が初めてだから分からないけど…」


 しかし海斗の言葉が尻すぼみに小さくなっていく。

 そして侑人はそれを嚙み締めるかのように間を置いて答えた。


「…じょ、冗談でも嬉しいよ…ありがとう!」


 侑人は笑顔で海斗に答えるのだった。




「じゃ、じゃあ、入って」

「お、お邪魔します…」


 先程海斗にお礼を言った所為か、照れながら侑人は言う。それを言われた海斗も少し照れながら、おずおずと侑人の家へと入って行く。

 そして海斗は周りを見渡した。中はシンプルながらも豪華過ぎず、落ち着く内装で海斗の口から感嘆の声を漏らさせた。


 侑人の後を追い、しばらく廊下を進むと、部屋の突き当りに海斗はある所を見つける。


「な、何か凄いね」


 そこには何畳もの畳が敷かれた道場の様な所があった。窓も何もない。ただ畳が占め尽くされている場所だった。


「あぁ、そこは、ど、道場だよ」

「ど、道場?」

「う、うん。ち、小さい頃はよくそこで護衛術の練習をしたよ」

「護衛術…」


 侑人の答えに海斗は動揺する。

 ボディガードになるという事は聞いたが、小さな頃からそんな事をしているとは意外だった。


「まぁ、さ、最近は週1ぐらいでしかやってないから大したことないよ…」

「そ、そうなんだ」


 海斗は、思っていた侑人のイメージを変えさせながら侑人の後を追った。


「こ、ここが僕の部屋だよ」

「お、おぉ…」


 そこは家のリビングぐらいの広さがあり、筋トレ道具が至る所に置かれている部屋。その他にも漫画本やライトノベルが入っている大きな本棚が置かれており、オタク感が溢れていた。


「まぁ、そ、そこに座ってて。い、今お茶持ってくるよ」


 バタン


 海斗は侑人が部屋から出て行った後、キョロキョロしながら部屋を歩き回る。


「凄いな…ダンベルとか、持った事ないな。って重っ!!」


 ダンベルには20キロと書いており、海斗は両手で持ち上げるが腕がプルプルして来たと同時にすぐに床に下す。

 海斗の体重は50キロギリギリあるぐらい。毎日ゲームをしてるだけの身体では、ダンベルを持ち上げるのも億劫だった。


(こんなのを置いてるなんて、もしかして真中君は運動が出来るのか…?)


 そんな事を思っていると、侑人がお盆に湯呑みを乗せてやってくる。


「あ、あれ、ダンベルに興味あるの?」


 そう言うと侑人はテーブルにお盆を置くと、海斗の近くまで来てダンベルを片手で易々持ち上げ、肘を曲げ下げしている。


「真中君って思ってたよりも力あるんだね…?」


 侑人の体格は決して良いものではない。身長は海斗よりも小さい160前半位だろう。線も細く、見た目だけなら海斗の方が力がある様に見える。

 しかし侑人は今もダンベルを持ち、筋トレを続けている。


「ま、まぁね。き、筋トレとかは毎日してるから。それよりも…本当に僕の、協力してくれるんだよね…?」


 侑人はダンベルを置いて、海斗に迫る。


「う、うん。何ってったって、俺の家には今が泊ってるんだから!」


 海斗は少し自信なさげに胸を叩くのだった。

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毎朝、電車で会う美少女に痴漢扱いされました。 〜俺をドン底に陥れた美少女は、俺に告白してきた。うん、怖い。 ゆうらしあ @yuurasia

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