第9話 ヤンデレの思惑通り
「じゃあ、私こっちだから。またねー」
「そうなんだ、じゃあねー」
「…」
帰り道、千春は出来たであろう友達の女子と別れる。勿論その近くには海斗が居た。千春はその女友達が見えなくなるまで笑顔で手を振ると、一気に海斗に近づく。
「海斗、一緒に帰りましょう!」
「…」
海斗は立ち止まり、振り返る。
「お前…今日のはどういうつもりだよ…」
海斗は不満いっぱいっと言った風に顔を顰めながら千春へと聞いた。
「え~? それは海斗の事を思ってですよ?」
上目遣いで海斗へと近づくと、さりげなく手を繋ごうと手を忍ばせる。
「…正直に答えないとあの話はなしだ」
「…えー、そんな事言っていいんですか? おば様に言ってしまいますよ?」
近づいてきた手を払い、真顔で答える。千春は構わず笑顔のまま海斗へと近づく。
「…はぁ」
それに海斗は大きく溜息を吐き、聞いてきた千春を無視して歩き出す。
「あ、あれ? …海斗?」
「…」
「…おーい……」
周りをうろちょろと歩き回るが、海斗はそれに反応しない。
その真顔で歩き続ける海斗の顔を見て、少し心配になった千春は俯き立ち止まる。
「その……すみませんでした! 私も新しい環境で舞い上がっていた様です! 本当にすみませんでした!!」
頭を下げる千春に、海斗は無言で見つめる。
海斗の中で、千春はこんな事する奴では無いと思っていた為か、少し動揺してしまう階段を。
「……わ、分かった、今はとりあえずいい。頭上げて」
「…………あ! 許してくれるんですか? ありがとうございます! じゃあ行きますか!!」
海斗は千春の姿を見て、許す事に決める。しかし少し間が空き、千春は元気に捲し立てると海斗の先を歩いて行った。
「…許さなければ良かった」
数秒後にはすでに後悔する海斗であった。
「あれ? 何処に行こうとしているのですか?」
それから数分後、千春が駅へと向かっている海斗へと声を掛ける。
「何処って…家に帰るに決まってるだろ」
「え、まだ5時にもなってないですよ!?」
驚きの声を上げ、目を見開く千春に海斗は少しの苛立ちを見せる。
「だから何だよ?」
「だ、だからですよ? ゲームセンター、とか行かないんですか?」
千春は俯き、少し恥ずかしそうに指を絡ませながら言った。
「ゲーム、センター?」
「知りませんか? 一杯ゲームがある所です」
「いや、それは知ってるけど…何でそんなデートみたいな事するんだよ? 今、人は居ないから彼女じゃないよな?」
海斗が千春に不思議そうに言うと、千春はポカンと口を開ける。
「海斗…貴方帰り道にゲームセンターに行くだけでデートだと思ってるんですか…?」
「え、違うのか…?」
海斗は今までの学生生活で帰り道にゲームセンターに行くなど、経験がなかった。しかも、まともに友達が来た事もなかった為、そのような常識にはどうしても疎かった。
「違いますよ!! 別に何の関係でもない異性でも、帰り道にゲームセンターに行きます!!」
「そ、そうなのか?」
「そうですよ!! …大人数とかなら」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ?」
海斗は腕を組み考える。
(寄り道なんかしていいのか…? 学校では行ってはダメだって決められている訳じゃないけど…あ、でも母さんに連絡を入れておくべきか? いや、コイツと2人で居る事は極力避けたい。俺とコイツは不仲だってとこを…)
色々な思惑が交錯するが、海斗の心の中では答えはほぼ決まっていた。
今まで帰りに寄り道をしてこなかった海斗にとっては、これはとても唆られる誘いだったのだ。
「…ほら! 何事も経験ですよ!!」
悩んでいる海斗に追い打ちを掛けるかのように、千春が背中を押す。
「…そう、だよな。何事も経験は大事だよな」
「はい!! じゃあ行きますよー!!」
千春はそう言って頷く海斗の背中を後ろから押して、ゲームセンターに向かわせた。
「ふふっ、海斗はこういう話題に弱い…計算通りです」
不穏な言葉を呟きながら。
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