第10話 ゲームセンターの暗闇で(前編)

「「おぉ…!!」」


 2人は周囲を見て、感嘆の声を上げる。


 何十台もあるUFOキャッチャーに、大型のコインゲーム、何種類ものリズムゲーム、見えるだけでも色々なゲームが存在していた。


 海斗はそれに目を輝かせていた。


(こんな大きなゲームセンター初めてだ…! あ、あのゲームやった事ない!! あ! 何だあれ!?)


 ゲーム好きな海斗にとっては、ゲームセンターは家と同義だった。

 しかし大きくなるに連れて、家に引き篭もる様になってしまっていた為、ゲームセンターに来るのはとても久しぶりだった。


 地元とは比べようがない程の大きなゲームセンターに海斗の気持ちは最高潮に高ぶる。


「な、何から回るんだ?」


 ここは寄り道上級者であろう千春に、どこを回るか聞いとこうと考えた。しかし、返事は返ってこない。


「おい、何処を…って、あれ?」


 隣を向くと、居た筈の千春の姿がなくなっていた。今のいままで一緒に行動して、ゲームセンターへと入った筈。


 海斗は、辺りを見回す。


 すると、可愛い小物のUFOキャッチャーのガラスにへばりついている千春を発見する。


「お、おい、何やってんだよ?」

「…海斗、この機械見て下さい。この小さなアーム…? を、使ってあのキーホルダーを取るんですよ…」


 説明口調だが少し辿々しく答える千春に、少し疑問を覚える海斗。


「いや…そんな事言わなくても分かってるって…」

「っ! 流石に分かってましたか! ま、まずはこれをやってみますよ!!」


 そう言って千春はUFOキャッチャーのボタンをカチャカチャと押し始める。


「? はっ!」


 千春は一瞬不思議そうな顔を浮かべた後、何かに気が付いて様に店の奥へと走っていった。

 何処に行ったのかと探しに行くと、近くにあったカウンターで店員と話し合っていた。


「ここでお金を払えばいいのですか?」

「えっと、コインと交換したいならそれ専用の機械があるので、そちらでお願いします」

「コイン? UFOキャッチャーってお金を払うものではないのですか? 調べた内容と違います…」

「あー…UFOキャッチャーはですね…」


 小声で何を話しているかは分からない。


 海斗が近づくと同時に会話は終わり、千春が顎に手を置きながら振り返った。


「なるほど…そうやるんですか…」

「…何をしてたんだ?」


 海斗は何かあったのかと、心配になりながら聞く。すると、ビクッと身体を震わし海斗を見つめる。


「…海斗? なんですか?」

「ん? だから店員と何を話していたのかって…」


 何故か海斗がそう言った後、千春はふぅと息を吐き、笑顔で海斗に向き直った。


「店員さんから、あのUFOキャッチャーのコツを聞いてたんですよ」

「…コツか…なるほどな」


(コツを聞く程にあのキーホルダーが欲しいという訳か…)


 海斗はうんうんと頷き、踵を返す。


「海斗?」


 少し驚いたような顔をして、千春は海斗の後を追う。

 そして海斗は先程のUFOキャッチャーの前に行く。そして立ち止まって千春の方を向く。


「…早くやらなくていいのか?」

「え、はい。やります」


 突然海斗にやる事を促され、UFOキャッチャーの前に立つ千春だったが、あたふたとする。


「…どうしたの?」

「いや、お金を入れる場所が…」


 海斗が千春の手元を見ると、そこにあったのは1枚の10000円札。


「何を入れようとしてるの…?」

「え、何って…これを…」


 一枚のお札を心許なそうに掲げる。


「あ! もしかしてこれだとお金が足りないっていうんですか? 安心してください!! もっとあるので!!」

「ち、違う! 小銭はないのかって話だよ!!」


 はっ! と気が付く様にカバンの中を漁り始めた所で、海斗は大きな声で訂正する。


「あー…小銭…ないです…」


 千春は顔を曇らせて下を向く。


「あー、じゃあ行くか」


 海斗は頭を掻きながら言うと、千春の顔が凄い勢いで上げる。


「ど、何処に行くんですか!? まままさ、ホホホ、ホテ」


 顔を赤らめて後ずさる千春の瞳は、高速で上下左右に揺れる。


「え…両替しに行かないのか?」

「あ、両替ですか」


 海斗は不思議そうに首を傾げて見ると、千春は半笑いで眉が八の字へと変化させた。


 此処には色々なゲームがある。

 先程千春を探す際に、男子達が抱き合っている様な所謂、腐女子向けのゲームを見つけた。そんな海斗にとってその反応をされると言う事は、いらぬ誤解を受けている様でとても不快だった。


「もしかして…変な事考えてたのか…?」


 恐る恐る海斗が聞くと、


「え、いや? な、何を言ってるんですか? 両替、両替しに行くに決まってるじゃないですか、さっ! 行きますよ!」


 千春は少しぎこちなさそうな笑顔を見せ、海斗の先を歩いて行った。

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