第11話 ゲームセンターの暗闇で(中編)

「さっ! 気を取り直してやりますよ!!」


 乗り出すようにUFOキャッチャーの台に手を置く千春は、その台に何十枚の100円玉を連ならせる。


 千春は中にあるキーホルダーをジッと見つめながら、お金を入れた。するとUFOキャッチャーに1回と表示される。


「海斗、よく聞いてください。まず、UFOキャッチャーにある、この1番のボタンを押すと奥に進んで行きます。これは自分が取りたい物の横に位置取れる様にするんです。そしてこの2番目のボタンを押して…」


 後ろから、その話をボーっと聞く海斗。


「…もうちょっと横にやった方がいいかも?」

「え?」


 ポト


 アームからキーホルダーが落ちる。


「ほら…」

「…なるほど、海斗はUFOキャッチャー得意なんですか?」

「まぁ、それなりに小さな時からやってたからな」

「ふむ、そうなんですね。じゃあ私に教えてもらっても良いですか?」

「あぁ、別にそれぐらいだったら全然…」


 海斗は教えやすい千春の隣に行く。まずは場所の捉え方を教えるかと、隣に着いた瞬間、千春が海斗の腕を引っ張り、耳元に口を寄せる。


「但し…手取り足取り教えて下さいよ♡ 」


 海斗は耳元で呟かれ、後ずさる。千春は、海斗の方をイタズラが成功したとでも言いたげに笑顔で見ていた。


「っ!? ひ、1人でやってろっ!!!」


 それに怒った海斗はそこから離れる。


(こ、こんな公共の場であんな事するなんて…!)


 海斗は少し、顔を赤らめ、恥ずかしそうに耳を服で擦る。

 海斗の心情は勿論穏やかじゃなく、千春とのやり取りで相当乱れていた。綺麗な美少女に言い寄られている、そしてストーカー女に擦り寄られている、そう考えると頭が混乱するのは仕方がない事だった。



 海斗が少し歩いて店のカウンターまで来ると、ある事に気が付いた。


 此処に入り、数十分。入って来た時には下校時間と言う事もあり、それなりの人が入店していた。


 しかし、


(なんか…人がいなくなった…?)


 大型のゲームセンターにも関わらず、海斗達以外の人が見当たらないのだ。


 此処は初めて来たゲームセンター。もしかしたら、閉店時間が極端に早いのかもしれない。そう考えた海斗は近くを通った店員に声を掛ける。



「あ、あの、すみません」

「はー…ぃ…いやー!? す、すみません!! 忙しいので!!」



 その店員は笑顔で振り返る。しかし次の瞬間、何かに気がつくかの様に頭を下げ謝り、走って行ってしまった。


 海斗は店員のその後ろ姿に何故か焦燥感に駆られる。



 何かが可笑しい。



 海斗は一度千春の下へ戻り、相談する事に決め、歩き出す。


 お客様に話しかけられれば、緊急事態でない限り対応するのが普通だ。


(何かあったのか…? いやでもあの店員忙しいって言ってたし…)


 海斗が向かっている途中で、口をへの字にしながら千春が歩いてくる。


「あ、海斗ー! 何処行ってたんですか! 私にUFOキャッチャー教えて下さいよー!」


 プンプンと効果音が鳴っているかと錯覚する様に、大きな胸を揺らしながら海斗を指を差して怒る。


「いや…別に他の所行っても良いだろ。何よりお前がふざけたから俺は…」

「だとしても居なくなるのは酷いと思うんです!! 女子を1人にするって言うのはそれなりの危険を付き纏わせるんですよ!! 分かってますか!?」

「…まぁ、ちょっとは」


 千春の表情からとても怒っていると判断した海斗は、少し気を遣ってそれを肯定する。


「ですよね、なら手を繋ぎましょう」

「いや何でだよ」

「手を繋げば貧弱な海斗なら振り解けずに私とずっと一緒…あ、いえ、間違いました。手を繋げば一生居る事が出来ますから」


 右手を差し出して、笑顔で見る千春に速攻でツッコミを入れる海斗だったが、その後の発言にブルーな気持ちになり、話を変える。


「…それよりもさっきから此処のゲームセンター、人少なくないか?」

「えー? 最初からこんなものでしたよ?」

「いやいやいや、もっと人居ただろ」

「うーん、まぁ今はゲームを楽しみましょうよ!」


 海斗は否定するが、千春はとぼけた様に笑いながらそれを流す。そんな千春に海斗は、先程あった出来事を話そうと、先を歩く千春に腕を伸ばした瞬間。



 バッ



「え!?」

「! キャアッ!?」


 突然ゲームセンター中の電気が消え、暗闇が訪れる。


「な、何だ!? 停電か!?」


 どうするべきかと悩んで、ゲームセンターの入り口から出れば外の状況は把握する事が出来ると考えた海斗は、手探りで出口へと向かおうとする。


 しかし、そこで、


「ま、待ってください!!」


 背後から千春の焦った声が響き、立ち止まる海斗。


「あ、わ、悪い。大丈夫か?」


 振り返るが、真っ暗闇で千春の姿は見えない。


「うっ…うっ…大丈夫じゃないです…助けて下さい…」


 啜り泣く様な声に海斗は驚いた。あのストーカー女がこの停電で泣くとは思っていなかったのだ。


「い、今何処にいるんだ!?」


 海斗は手で周りを把握しながら、物にぶつからない様に慎重に進む。


「うぅ…助けて下さい…海斗ぉ…」

「まっ、待ってろ!! 今行くからな!!」


 まさかここまで怖がるとは予想だにしていなかった海斗は、ここは男の見せ所だと、安心させる様に叫んだ。




「ふふっ…あぁ、海斗…その少し焦った顔も…はぅ♡」


 その近くで頭からゴーグルの様な物を着けて、海斗の事を見つめている者が居るとはつゆ知らず。

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