第19話 相談(前編)
「え、えっと、どういう事?」
「お、俺は脅されてるんだ!!」
海斗は侑人の手を取り、助けを求めた。
海斗にとっては、この学校唯一の理解者。いや、世界を探してもあの時の駅員と侑人だけが、痴漢をしていない事を知っている者。
恐らく警察に助けを求めても、今の海斗にとって千春に勝つ事は難しいだろう。いざとなったら校門の件を言われれば、此方が不利になるのは目に見えている。
海斗が助けを求めるのは必然だった。
「お、おど?」
侑人は首を傾げた。
いや、いきなり脅されたと言っても混乱するだけ。もっと詳しく説明しないと、そう思った海斗はここ数日起こった出来事、そして事情を話した。
「そ、そう、なんだ。今、小鳥遊さんってそんな人だったんだ…」
「あ、あぁ! 助けてくれ!!」
海斗は頭を深く下げて、頼み込む。しかし、
「でも、ハッキリ言って簡単には信じられないよ…ごめん」
「う、嘘だろ!? 作り話だと思ってるのか!?」
「いや、そう言う訳じゃ無いけど…ごめん」
「そ、そんな…」
海斗は、侑人のそんな言葉に海斗は肩を落としたのだった。
「ふふっ、まぁ、そうですよね」
千春はイヤフォンを取った。
「だ、だけど」
侑人は落ち込んでる海斗に対して、戸惑いながら言葉を紡ぎ始める。
「そ、その、難波君の家には…」
「じゃ、じゃあ、俺、今日は真中君と一緒に帰るから」
放課後、海斗はしどろもどろになりながら小声で千春へと言った。
千春はそれに驚いたように眉を上げる。
「…何でですか?」
「え、いや、その遊びに行くんだよ」
それに対して海斗は少しどもりながらも、答えた。
千春は海斗を訝し気な目で見ると、少し息を吐く。
「…分かりました。じゃあ私は凪と一緒に帰りますね」
「あ、あぁ! じゃあ!!」
海斗は千春に手を上げて、侑人の下へと向かった。
それを前の席から見ていた凪は、怪しそうに千春と海斗のやり取りを見つめていた。
「えっと、じゃあ、何処に行こうか?」
海斗は侑人に話しかける。今2人が居るのは校門前。帰りに寄り道をほぼした事がない2人は、頭を悩ませていた。
「う、う~ん…ど、どうしようか?」
「んー、なるべく人がいない所が良いよね?」
「う、うん」
「…じゃ、じゃあさ、真中君の家は?」
海斗が問いかけると、侑人は目を瞑り長く唸る。
「そう、だね。僕の家だったら色々出来るし…」
侑人がブツブツと呟くと、顔を上げて海斗を見る。
「よ、よし、じゃあ、行こうか」
「ちょっと良いですか?」
背後から千春達が海斗達へと近づいてくると、笑顔で侑人へと話しかけた。
「な、なんだよ。帰らないのか…」
「…帰りますよ? ただ難波君が校門の前で不審な行動をしてた様に見えたので…」
「な、難波君!?」
海斗は驚きに目を見開いた。
いつもなら名前で言って来る所、何故か苗字で言って来たのだ。驚きもする。海斗は少し後ずさりながら千春の方を怪しむように見つめた。
千春はいつもと変わらず笑顔で海斗を見る。
「…」
その後ろに控えている凪が、ジッとその様子を見つめる。
「今日は2人で何処かに行くんですか?」
「え、えっと、うん。僕の家にちょっとね」
後ずさっている海斗に対して、侑人が代わりに答える。
「…そうですか、楽しんで来て下さいね」
そして千春は笑顔で去って行った。
「…いい人じゃない?」
去って行った千春が見えなくなると、侑人はボソッと呟いた。
「だ、騙されているぞ!? アイツの本性が分かっていないからそんな事が言えるんだ!!」
「え、でも、ルールでは2人以外の時は恋人って話、なんだよね?」
「…うん」
「で、でも、さっき、よそよそしかったよね?」
「ま、まぁ、俺が学校の人にはバラしたくないって言ったら、ああいう風になった…」
「なら以外に小鳥遊さんって良い人なんじゃ…」
「ふふっ」
そんな時、帰り道の途中で千春と凪の2人は、近くにあるオシャレなカフェに入って居た。紅茶を飲みながら千春は、海斗の襟もとに仕組んでいる盗聴器から、2人の会話を盗み聞きしていた。
「お嬢様…何故先程あの者を苗字で呼んでいたのですか?」
凪はコーヒーカップに入ったミルクを嗜みながら聞いた。千春は紅茶を飲んで答えた。
「海斗は恥ずかしがり屋ですから。友達の前では苗字で言ってくれって言うんですよ」
「…なるほど、あの者は引っ込み思案という情報でしたからね」
凪は納得したのか、牛乳を一気に飲み干した。
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