第4話 2人のルール(前編)
「…ただいま」
「おかえり〜、今日は遅か…って! アンタ!? その格好どうしたの!?」
母、
「何されてきたの!? カツアゲ!?」
料理をしていたのか、身につけた赤いエプロンで手を拭きながら海斗へと近づき、心配そうに頭の天辺から、足の指先まで隅々見る。
「…なんて言うか…喧嘩って言うか…嫉妬されたって言うか……呪いって言うか…」
ドンドンと尻すぼみに暗いトーンになって行く息子を見て由美子は、
「…ちょっと嫌だ、何か変なものでも食べたのかしら? 気をつけなさいよ?」
「…」
由美子はそう言うとまた、キッチンへと戻って行った。
海斗の母、由美子は海斗とは正反対の陽キャである。友達は沢山いて、週に1回は近所のママ友と、ママ友会なる物を開いている。勿論主催者だ。
その数々の場面を乗り越えて来た猛者達が集まる場、所謂陽キャの戦場とも言える場所でトップを張っている。
海斗が、何度か本当にこの人の息子なのかと疑問を持つ程、2人は似ていなかった。
今ではもう割り切っている海斗だが、学校の者が見たら驚きに目を開くと予想している。だから、今まで授業参観は呼んだ事がないし、家に人を呼んだ事もない。
(まぁ、息子がボロボロになって来て、呪いの所為とか言ったらそう思うか…)
心の中で、頭もおかしくなったのではと思うのも無理がないと少し納得して、海斗は大きな溜息を吐く。
ボロボロになっていた理由。それは職員室に呼ばれ事情を話した後、待ち伏せしていたかの様に男子生徒数人に絡まれたのだ。
幸い暴力を払われる事もなく、事なきを得た海斗は、そそくさと学校の人が通らなそうな道を進み、家へと帰って来たのだった。
(…マジで…アイツにはもう会いたくない)
千春の事を思い出しながら身体を震わす海斗は、一度外に出て少し汚くなった土埃の制服を少しはたいて、汚れを落としてから家へと入る。
そして、手を洗おうと洗面所へと向かう。
ガラッ
「すぅぅぅ…はぁ〜…海斗の匂い…堪りません♡」
「……」
ガラガラガラ…
洗面所のドアを一度閉めて、海斗は目頭を押さえた。今日色んな事がありすぎて幻覚を見てしまったかもしれない。そう思ってもう一度洗面所のドアを開ける。
ガラッ
「…ほ、ほら、居ないじゃないか」
洗面所のドアを一気に開け見てみると、そこにはいつも通りの風景。入って目の前には洗面台、隣には洗濯機、その横には海斗の服やパンツが入った洗濯カゴや洗剤、柔軟剤を置いてある棚、1番奥には風呂場がある。
海斗は中に入り、周りを見渡すが誰もいなかった。風呂の中まで見たが、人影は一切なく、安心して手を洗う海斗。
(さ、流石に家まで居たら怖すぎるよな、考え過ぎだ…)
手を洗い終わり、洗面所から出る。そして、自分の部屋へと向かう為、階段を登る。
海斗の家は2階建てで、1階にはリビングに風呂、洗面所と部屋が2つ。これは両親の部屋である。2階は階段を上がって、すぐ左にある部屋が海斗の部屋であった。
そして、階段を登り切り、自分の部屋のドアノブに手を掛ける直前、海斗は気づく。
(…何か物音がしないか?)
自分の部屋からガサゴソと物音がし、海斗は耳を澄ませる。
『海斗♡ 海斗♡ 海斗ぉ♡』
部屋の中から千春の声が聞こえ、一瞬身体を強張らせる海斗だったが、一息にドアを開ける。
「お、おい! ストーカー女! 何してん…だって…」
…バタン
扉を閉め、部屋を見渡す。そこには洗面所と同じいつも通りの風景。窓際にある勉強机は綺麗に整理整頓されている。その反対側に置かれているベッドは朝起きて片付けていないからぐちゃぐちゃのまま。恐らく変わっていない。
部屋に入りカバンを置くと、部屋の隅々まで調べる。机やベッドの下、クローゼットの中まで隅々と。
(…幻聴まで聴こえてるのか…重症だ)
海斗は制服を脱ぎ、部屋着へと着替えると、用心の為に空いていた窓を閉める。
これなら、もしあのストーカー女でも入って来れない、そう思った海斗は安堵し、階段を降りて行く。
降りると、リビングからは由美子の得意料理の匂いが漂う。
(お、良い匂い)
海斗の好物でもある、その料理をすぐさま嗅ぎ分けると勢い良くリビングへと入る
「母さん、今日の料理って………」
海斗の足が床にへばりついたかの様に動かなくなる。
「あ、千春ちゃん! ペペロンチーノとか食べれるわよね?」
「はい、おば様。…大好きです」
いつも海斗がご飯を食べる時に使う椅子に、千春は座りながら言った。入って来た海斗の方を見て。
「ちょっとヤダ! どこかのセレブみたいで恥ずかしいわ!!」
由美子は嬉しそうに少し頬を赤らめる。
アレは幻なんかではない。
現実だった。
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