第15話 ヤンデレのお泊まり大作戦(後編)

「はっ!!」


 海斗はリビングにあるソファの上で目を覚ます。起き上がり周りを見ると、誰も人は居なく、月明りが窓から差し込んでいた。テーブルの上にはラップを掛けられた料理が置いてあった。


(俺は…確か…そうだ! アイツらが泊まりに来たんだ…それで…何で俺は寝てるんだ?)


 しばらく考えても答えが出なかった海斗は、電気を点けて椅子に座ると箸を手に取る。しかしご飯に手を付けようとした直前、箸を止める。


(もしかして…これ危なくないか?)


 この前海斗がやっていたゲームの中に、彼氏を愛しすぎる為、料理に自分の髪の毛や、爪などを入れて深すぎる愛情を表現していたキャラがいた。

 海斗はそのキャラと千春を重ねて、危険性があるのではと疑心暗鬼になっていた。


(見た所…入ってないけど…アイツなら粉末状に入れてても不思議じゃないしな…)


 そう思うと海斗は、ご飯を食べるの諦めてキッチンへと向かうが、


「…今日に限ってカップ麺とかないのかよ」


 海斗はいつもの棚にカップ麺が入ってない事を確認すると、あからさまに残念そうに大きく溜息を吐いた。


(歯磨くか…)


 いつもなら風呂に入った後にすぐ歯磨きをするという習慣の海斗であったが、今は0時を過ぎている。風呂に入るとシャワーの音で誰か起きるかもしれない、と言う考えが海斗の頭の中に浮かんだ。


 海斗はリビングから出て、洗面所へ向かう。寝ている者が起きない様に慎重に。


 洗面所の扉を開けて電気を点けようとするが、電球が切れているのか電気が付かない。


「付かないな…ならこっちで…」


 海斗は洗面台についてる電気を点ける。


「え、」

「…」


 洗面台の鏡に映った。


 バスタオルを片手に、あまり凹凸のない身体の水気を拭いている凪の姿があった。髪からは水が滴り落ち、肌は少し赤らんでいる。


「あの、閉めて欲しいのですが」

「…」


 凪は冷静にバスタオルで身体を隠して言うと、少し睨む様な目つきで海斗を見る。


 海斗は声を発する事なく、何も行動を起こすこともなく、凪を凝視する。


「…あの、お姉様が貴方の事が好きだからと言って、私は貴方の事を認めた訳ではありません。気持ち悪いので閉めて下さい」

「…」

「あの…」


 凪は近づき、海斗を洗面所から出そうと触れた瞬間、海斗はそのままの格好で後ろに倒れて行った。


「……これは、お嬢様に知られたら大変ですね」


 凪は急いで着替えると、小さな身体で海斗を移動させるのだった。






「ん…」


 海斗はリビングのソファで目を覚ました。寝惚け眼で壁に掛かっている時計を見ると時刻は午前4時。海斗は時計を見て少し動きを止めると、勢いよく起き上がる。


(や、やば! 早く風呂に入って学校の準備しないと!!)


 海斗がいつも起きる時間は5時。昨日、何も準備出来ていない事から、今から準備すると出発時間はギリギリと言った所だった。

 急いでリビングから出て、洗面所へと向かう海斗。扉を開くと、の電気を点けて服を脱ぐ。


(…って、俺は何で洗面台の電気を)


 洗面台の電気を点けた後、洗面所の電気を点けようとする。しかし、洗面所の電気は点かなかった。


(あれ? なんか既視感が…いや、とりあえず早く風呂に)


 海斗はを脱いで風呂へと入ったのだった。





「はぁ…なんていい朝なんでしょうか…こんな時間から海斗に会えるなんて!!」


 千春は駅に行くまでの登校途中、深く深呼吸すると、満面の笑みを浮かべる。


「分かったから…行くぞ…」

「…海斗? 何か疲れてはいませんか?」


 海斗の憔悴している表情から、何かを感づいた千春は眉を顰めて隣から腰を曲げ、海斗の覗く。


「いや…朝から急いだから少し疲れただけだ」

「まさか私達が来てから朝まで寝るとは思ってませんでしたよ」


 千春は口を手で隠しながら優雅に笑い、海斗の腕を抱く。


「お、おまっ! 今は誰も!!」

「凪がいるじゃないですか、あの子は私達を普通のカップルだと思ってますよ?」


 千春は海斗の肩に顎を置き、呟く。海斗は後ろを振り向くと、セカンドバックを持った凪の姿があった。凪は海斗と目が合った後、数秒ジッと見ると目を反らした。


「な、凪ちゃんって言うのか、よろしく」


 海斗はぎこちなく凪へと手を差し出す。が、凪はそれを無視いて歩いて行く。


「無愛想な子なんです」


 千春は変わらずの笑顔で海斗に言った。


 海斗のコミュニケーションは、ほぼ無いに等しい。同い年に話すのもためらわれる程のコミュニケーション。年下に話すのも相当の勇気を持って言った言葉だった。


 つまり、


(…お、俺は年下の子にもこうなのか)


 海斗は余りの恥かしさに、凪、千春からも表情が見えない様に顔を背けるのだった。

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