第12話 ゲームセンターの暗闇で(後編)

「ど、何処にいるんだ!? も、もう少し声を出してくれ!」

「こ、此処ですぅー…海斗ぉ…」


 千春は小さく掠れた泣き声で海斗を呼ぶ。


 しかし、呼んだ後、そこから移動して海斗の身体に触れないギリギリを攻める。そしてカバンの中に入れていた暗視ゴーグルで海斗の焦った表情を間近で観察していた。


(はぁ、はぁ、た、堪りません…!!)


 千春は垂れてくる涎を拭った。



 *


「クソッ…何でこんな見つからないんだ」


 海斗は動き回っている内に、ゲームセンターの奥まで来ていた。停電になってから数分。まだ電気が点かなかった。

 今日の天気は晴れ。自然災害でこうなってる訳ではない。


(機材トラブルか…機材…って…そう言えば俺スマホ持ってるからそれで照らせば…)


 海斗は徐ろにポケットからスマホを取り出すと、辺りを照らす。その光は一瞬、海斗の視界を眩ませる。


 そして見えたのは、


「はぁ、はあ! 眩しいです!!」


 そこには、息を切らして、暗視ゴーグルを着けた者の姿があった。


「っ! っ!!」


 そして海斗はその姿を目にすると、声にならない声を上げ、全速力で逃げた。


 そのあまりの恐ろしさに。


 暗闇の中、周りに誰も人が居ないと思ってライトを照らしてみると、変な物を着けた者が至近距離で此方を見ていた。


 誰であっても怖いと感じる。


 海斗はライトで前を照らしながら、ゲームセンターの出口を目指す。まだ外は明るい筈。しかし、光は見えない。


 暫くして、自分が逃げている内に道に迷ってしまった海斗は、あの者から逃れる為に近くのプリクラ機へと入った。


「はぁ…な、何だよ、さっきの人…」


 そしてライトを消すと、海斗は一応外から見えない様に隠れ、息を殺した。


(あのゴーグルみたいな奴…誰なんだ…)


 海斗は顔を青褪めさせながらも、スマホの光がプリクラ機の外に漏れない様にコッソリと操作する。


(とりあえず…警察に連絡を…)


「ワッ!!」


 身を隠していた海斗はその声に身を震わせて、また逃げようとするが、


「海斗! 私です! 私!!」


 と言う声に、聞き覚えがあった海斗は直ぐに足を止めてライトを照らした。


「お、お前…」

「ふふっ! さっきはすみま

「よ、良かった!無事だったんだな!」

「ふふぇっ!?」


 海斗は千春の手を取ると、プリクラ機の中へと引き摺り込む。千春の口から動揺した様な震えた声が出る。


「あの

「置いていって悪かった! 早く此処から出よう!実はさっき変な奴が居たんだ!!」


 状況が飲み込めていない千春に事細かに話す必要はない、そう思った海斗は必要最低限のことを話すと外の様子を伺う。


「ふふっ、アレですか。アレは私です♡」

「そうなのか、いや、でも本当…え?」


 千春の一言に海斗は振り返って、千春のニヤけ顔を見た。2人の間に少し静寂が訪れると、千春が口を開く。


「だって、ほら。これ見て下さい」


 先程の者がつけていたゴーグルが千春の鞄のから出て来る。それを見た海斗はパチパチと瞬きをすると、千春の満面の笑みとゴーグルを、行ったり来たりする。


「「…」」


 また静寂が訪れ、先程の倍の時間ぐらいは時が流れる。


「えっと…ごめんなさい?」

「お、お、お前ぇぇぇ!!?」


 海斗は涙目になりながらも、この気持ちをどうしたものかと強く握り拳を作り、プルプルと震える。


「あ♡ 海斗、電気点きましたよ? このままプリクラってのをやりませんか? 良い記念になると思うんですけど?」

「や、やる訳ないだろぉ!?」



 海斗は折角こんなにも大きなゲームセンターに来たにも関わらず、一度もゲームをせずに帰ると言う、帰りに寄り道と同様、人生初を一気に2度経験した。

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