第26話虫をも喰らう覚悟
土曜日午前6時50分。俺は20kgを超える荷物を抱えて住んでいるアパートの前に立っていた。俺が住んでいるのは築50年のオンボロアパート。家賃は25000円だ。
5分程待っていると大きめの車が来た。その車は俺の前に止まり中から桜井さんが出てきた。早速昨日詩乃さんから言われたこと実行しよう。
「おはようございます太郎君」
「おはよう凛さん」
「え!?」
「どうかしたか?」
「いや、今私のこと下の名前で…」
「嫌だったか?」
「い、嫌じゃないです。えっと厚かましいようですが、できれば『さん』も取ってもらえるとより嬉しいなって思ったかも…」
相手が『君』付けで呼んでいたため、『さん』付けで呼んでいたが。ない方が良いのなら別に構わない。むしろ呼びやすいくらいだ。
「凛?」
「は、はい!凛です!う、嬉しいです…」
「お、おう」
呼び捨てにすると凛が勢いよく返事してくれた。びっくりした。しかもその顔は恍惚とした表現に包まれている。少し色っぽい。
「あんた達ねぇ。何朝っぱらからピンク空間作ってるのよ」
凛とそんな話をしていると、運転席から詩乃さんが降りてきた。ピンク空間って、そこまで甘い空気が流れていたのか。
「ご、ごめんなさい詩乃さん。急に太郎君が下の名前で呼んできたのでつい…」
「ほう?」
やるじゃない的な視線でこちらを見てくる詩乃さん。これで彼女からの依頼は達成だ。しかも凛も喜んでいる。良いこと尽くしじゃないか。
「まぁ良いわ。車に乗りなさい。行くわよ」
「分かりました」
詩乃さんの指示で各自車に乗り込む。間も無くして車は出発した。
「着いたわよ」
「お疲れ様でした。詩乃さん」
「ここ一体どこなんだ?」
約1時間後。目的地に到着した。全く知らない場所だ。辺りを見渡してみると見えるのは山と川。まさに想像していた通りのキャンプ地だ。
「ここは私の親戚がやってるキャンプ場よ。今日と明日は貸し切りにしてもらってるの」
「貸し切り!凄いですね」
思っていた以上に至れり尽くせりだ。それに思った通り泊まりのようだ。
「とりあえずテントを建てるわよ」
「手伝いますよ」
「私も手伝います!」
そこからは詩乃さん無双であった。さすがキャンプ熟練者。手際良くテントを1張り完成させた。聞いたところによるとソロキャンなどもしているらしい。思ったよりガチだ。
「それで次は何するんですか?」
「決まってるじゃない食料調達よ」
「し、食料調達?」
「そうよ。釣りをするのよ」
「詩乃さんとキャンプする時は毎回やってるんですよ」
俺が思ってたのと違う。キャンプっていうから持ってきた食材でバーベキューとかするのかと思っていたのだが、予想以上にアグレッシブなキャンプのようだ。しかし望む所だ!筋肉は全てを解決するのだ。
「あ、ちなみに何も釣れなければ飯抜きよ」
「一昨年は何も連れなくて大変でしたよね!」
「あれは思い出したくないわ…」
ちょっと待て。それは困る。飯抜きなんてトレーニーの風上にも置けぬ行為だ。これは意地でも食料を調達しなければ。最悪虫でも食べる覚悟だ!筋肉の生死をかけた戦いが今、始まる!
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