第46話綾乃の気持ち(綾乃視点)

わたしと太郎先輩の出会いは実は今よりもずっと前、小学生の時にさかのぼる。その当時のわたしは体が弱く良く病気や怪我をしていた。




その日は体育の授業であった。体が弱いわたしはその日も参加していなかった。そしてこの日はわたし以外にも見学者がいた。それが太郎先輩である。わたしの通っていた小学校は凄い田舎にあり体育は2つの学年合同で行っていた。


「なぁお前何で見学してんの?」

「えっと、わたし体が弱くて…」

「そっか。なぁ俺と筋トレしない?」


唐突に良くわからないことを言われた。だから最初の印象は変な人だった。


「えっ、筋トレですか?」

「そう。俺最近筋トレにはまってるんだよ。筋トレすれば体弱いのもきっと治るよ」


今思えば、当時小学生だった太郎先輩は特に根拠もなく筋トレ仲間が欲しくて言った言葉なのだろう。でも今まで体弱いこの体質を配慮してくれる人はいても治そうとする人はいなかった。なので少し興味を持ったわたしは1つ年上の男の子の言う通りに筋トレをした。当時したのも腕立て伏せであった。




「いいじゃん。その調子だ!」

「は、はい!」


それから昼休みに一緒に筋トレをする日々が始まった。今思えばこの時から太郎先輩のことを気になっていたのだろう。最初はただ太郎先輩と一緒にいたいという理由で筋トレしていたがだんだんと筋トレ自体が楽しくなってきていた。


そして筋トレをすることで今まで無かった食欲も出てきていつの間にか体重も増え、体が弱いと思うこともだんだんと無くなっていた。その頃には太郎先輩に完全に恋をしていた。初恋でした。


しかし残念ながらその恋が実ることは無かった。太郎先輩は家の事情で引っ越してしまったのだ。当時のことはいまだに鮮明に覚えている。


「綾乃ちゃん。俺実は引っ越しすることになったんだ」


いつもの昼休み。筋トレの時間に唐突に言われた。


「え、引っ越しですか?」

「そう」

「でもそんな遠くじゃないですよね?」


最初はちょっと近所に引っ越すのだろうくらいに思っていた。


「いや、遠い場所。転校もするからもう簡単には会えない」


それを聞いた時、頭が真っ白になった。転校?もう会えない?本当に?太郎先輩ともう会えない?


「う、うう。ぐすっ」


そう思うと自然と涙が出てきた。


「な、泣くなよ。絶対またいつか会いに行くから」


その時の太郎先輩はきっと凄い困った顔をしていただろう。それでも必死に慰めてくれた。


「う、うん。絶対だよ?もし会いに来なかったらわたしが会いに行くからね?」

「分かった。絶対だ」


それからいつの日か会いに行くために太郎先輩の引っ越し場所を聞いた。その場所は確かに遠くではあったが知っている地名だった。わたしの叔母が住んでいる場所であり行ったことがあっあのだ。


『絶対に会いに来てね!来なかったらわたしから行くから!』その言葉を胸にわたしはそれからの日々を過ごした。しかし太郎先輩が会いに来ることはなかった。




「ここが叔母が大家しているアパート。すっごいボロボロ…」


高校生になったわたしはやっと両親に許可をもらい先輩の住んでいる街に来ていた。今日からこのボロアパートに住む予定である。親戚価格で家賃0円!とある筋の情報から先輩がこのアパートの近くにある高校に通っているのは知っている。会うのが楽しみだ!


「先輩が会いに来ないからわたし来ちゃいましたよ?覚悟しといてくださいね!」



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