第39話女の戦い
「じゃあ綾乃ちゃんは一昨日、太郎君の隣に引っ越してきたってことですか?」
「そうですよ。お隣さんさんです!ねー太郎先輩!」
馴れ馴れしく同意を求めてくる高田さん。普通の女子ならイライラするところだがそれがないのは彼女の人柄とか空気感によるものだろう。恐ろしい子だ。
「まぁ確かにそうだな」
「うう。私も引っ越します!」
「凛。それはいくらなんでも無茶だろ」
「そんなことないです!お金ならあります!」
「親御さんが絶対許可しないだろ」
「確かにそうですね…」
落ち込んでしまう凛。そしてそれを優越感のこもった目で見つめる高田さん。さっきのからこの構図が繰り返されている。高田さん強し。
「そういえば高田さんは何で転校して来たんだ?」
これはずっと気になっていたことだ。こんな中途半端な時期に転校して来たのだ。何かしらの理由があるのだろう。
「えーそんなの太郎先輩に会うために決まってるじゃないですか!」
「そんな訳ないだろ。しれっと嘘をつくな」
「嘘じゃないんだけどな」
急に真面目な口調になりポツリと呟く高田さん。そんなに深刻な理由があるのだろうか。つい突っ込んでしまったが失敗だった。
「そんなことより太郎先輩!いつまでわたしのことさん付けで呼んでるんですか!」
空気を変えるように高田さんが非難してきた。別に自然とさん付けで呼んでいたが嫌なら別に何でも良い。
「高田で良いのか?」
「綾乃って呼んでください!」
「綾乃?」
「はい!綾乃です!」
名前を呼んだだけで凄く嬉しそうな綾乃。無邪気な笑顔だ。正直可愛い。
「これで凛さんに並びましたね」
「その程度で並んだ?甘いね。綾乃ちゃんはまだ太郎君と出会って1日目でしょ?私なんてもう何ヶ月も一緒にいるんだから」
ドヤ顔で凛を挑発する綾乃。そしてそれをまたドヤ顔で言い返す凛。
「そんなの所詮学校とかでの時間だけですよね?わたしはお隣さんですよ?行こうと思えばすぐに太郎先輩の家に行けるんですよ。そんな数ヶ月の差なんてあっという間に逆転しちゃいますね」
「ふっふっふ。甘いね綾乃ちゃん。私と太郎君は放課後も結構な時間一緒にいるんだから!」「へぇ。そんなんですか。デートでもしてるんですか?太郎先輩」
今までになく低い声色で聞いてくる綾乃。本当女子は声色で感情を表現するのが上手いな。怖い。
「デートではない」
「でも放課後一緒にいるんですよね?」
「それはまぁ色々あってな」
「その色々を聞いてるんです!」
語気を強める綾乃?そう言われてもなぁ。凛の秘密にも関わることだし。俺の一存では決められない。そう思い凛の方に視線を向ける。
「ふふふ。色々は色々ですよ。綾乃ちゃん?」
これ我が意を得たりとばかりに綾乃を挑発する凛。今までとは逆パターンだ。
「ぐぬぬぬ。分かりました。じゃあわたしも太郎先輩とデートします!」
「残念でした!今日も放課後は予約済みです!」
「じゃあ私もついて行きます!」
「それは無理です!ですよね太郎君」
「まぁそうだな」
確かに合トレにもう1人連れて行く訳には行かない。凛には報酬も貰ってるしな。
「太郎先輩までひどいです。分かりました。もう良いです!今日はこれにて失礼します!」
そう言って荷物をまとめ教室を出て行く綾乃。慌ただしいやつだ。
「勝った…」
ボソッと呟く凛。まぁさっきまではずっとやられる側だっからな。嬉しいのだろう。
「なぁ太郎。俺完全に空気だったな…」
「そ、そうだな」
忘れていた。そういえばかけるも一緒に食べてたんだった。放置してごめん。
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