名古屋を舞台に探偵事務所で助手としてバイトしている高校生、服部朔が探偵である樹神皓志郎のお手伝いをしながら、依頼を解決していく…というお話です。
このお話は先ず、ご当地ご飯にやられます。とても、美味しそうなんです。怪異という不穏な気配がありながらも、とにかく、ご飯の描写にお腹が空いてしまうのです。
同時にこの物語は怪異に誘われるように深く入り込み、のめり込んでしまう魅力があります。
そして登場人物が皆様、素敵です。
服部君は応援したくなりますし、樹神先生の安心感が半端ないです。その為に安心して物語を読み進めることが出来るのです。
共感応を持つ為に苦労してきた服部君を導く樹神先生と百花さんの二人のやり取りも素敵です。三人がそれぞれの能力を合わせて進む物語は点と点がひとつとなって、最後に服部君の抱えていたものへと着地します。
零和の今尚、生きる怪異は人間の哀しさが作るものとして、切なくもどこか心地の良い余韻を残して解決していきます。
それでも、どこかやりきれない思いや、背けたくなるような、人間の心が描かれていて、その度に出てくる登場人物達に思いを馳せてしまいます。
また、彼らに会いたくなる。そう思わせる心地よさもある物語です。
怪異、伝奇。
どこか硬いイメージも感じさせてしまうテーマではありますが、本作の目玉はなによりキャラクターの豊かさにあるのではないか、と思っています。
すずめ先生としてはめずらしい(?)高校生主人公、朔少年のなかなか見えてこない過去。大人なのに茶目っ気たっぷりの樹神先生、妖しい雰囲気の百花姐さん。
舞い込む事件に感じさせる、切なくもどこか共感できてしまうエピソード。暖かさと切なさがとても程よいバランスで、最後までストレスなく読まされてしまいました。
読み終わってすぐに思ったのは「少なくとも五巻くらいまではあるはず……読まねば!」という気持ちにさせられました。なにが言いたいかというとこの作品がここで終わっていいはずがない、そんな気持ちです笑
また物語の面白さとは別に、元となっている地域や食べ物、都市伝説について詳しく編み込まれていて驚きました。自分は名古屋に降り立ったことはありませんが、この地域自体への興味もわかせてしまう作品でした。
あと地味に飯テロです、その点だけご注意を!(笑
『歌は呪文みたいなものだよ。例え発信者が意味を知らずとも、受信者が聴き取った形で効力を発揮する――』
作中のこの台詞こそが、物語の中核にあるのではと思いました。
幼い頃に何となく刷り込まれていた、耳馴染みのある童謡・遊び歌が、その俗説を辿っていくにしたがって、だんだんと不穏な旋律に聞こえてきます。
懐かしく、親しみのあるメロディーを聴いていたら、知らぬ間に不協和音が入り混じってきて、名古屋飯コメディドラマが心霊ホラーへと転調されていくゾクゾク感には、もはや快感すら覚えました。
依頼人だけでなく、登場する怪異にも、それぞれ人間味のあるドラマが内包されていて、依頼人との共鳴の中で、その悲鳴や慟哭が、胸の深いところまでズゥンと響いてきます。
なんでこんなにも自分が苦しんでいるのか分からない。でも、本当の原因を知ってしまったら、もっと辛い想いに蝕まれてしまう気もする。知ってしまいたい、でも知りたくない。もう悩みたくない、忘れよう。
この『共感応トワイライト 〜なごや幻影奇想ファイル〜』には、人間関係へのやり切れなさと、家族でも友人でもない「隣人」による救済が描かれています。
人は、人によって傷付けられるのに、人によってその傷を癒やされることもある。
単純な人間讃歌ではありません。悪に犯され、善意に押し潰され、どこにも吐き出せない憎しみに苛まれることもある。
でも、人生の道半ばで背負ってしまった重石を、信頼のおける「隣人」と抱え合うことが出来れば、あなたはもっと楽に生きられるはず。
主人公の服部 朔は、忸怩たる想いを抱えた彼ら怪異たちの、深層に秘められた無念の声を聴くことで、彼らを成仏させていきます。
でもその救いにしたって、師匠である樹神 皓志郎や、異能の先輩である百花さんの協力があってこそ成し得たことなんですよね。誰かによって助けられた者が、今度は誰かを助けていく。人に傷付けられてもなお、怪異にならないようにするためには、人の助けが必要です。
どうか、あなたの想いも成仏しますように。
陽澄すずめ先生による、温かい祈りの唄が聞こえてきて、気が付けば泣いているような小説でした。
黄昏時の高架下、寂れてしまった商店街、いつも人気のない公園。あなたの街にも、どこか背がぞくりとするような場所はありませんか?実はその感覚、当たっています。このような場所には怪異が住み、常に私たちを“あちら”へ招こうとじっと目を光らせている――。
この物語はそんな怪異たちが起こす事件が持ち込まれる、少し変わった探偵事務所のお話です。
依頼人が女性だと知ると喜ぶキザな優男が探偵、樹神皓志郎。個性ばっちりな彼が華麗に難事件を解決するのかと思いきや、主人公は彼の助手で高校生の、服部朔くんです。
怪異が視え、さらに常人にはない力を持つおかげで家庭に居場所を失った服部君は、賢いけれど周りに壁を作ってしまいがち。先生の助手として事件に同行するも、あと一歩の活躍ができずに落ち込むこともしばしば。けれど事件をきっかけにさまざまな依頼人との触れ合ううちに、彼はたくさんのものを見つけ、時には失って、小さく小さく前に進んでいきます。
怪異が絡む事件も、その原因となる怪異との対決も、実はびびりの私には結構怖かった!(笑)でも大丈夫、どのお話にも納得できる結末が用意されています。章ごとに事件は見事な解決を迎えるのですが、ミステリらしくその中にもたくさんの仕掛けが。すべてのピースが集まる最終章の盛り上がりは必見です!そしてハンカチのご用意をお忘れなく……!
立ち止まりがちな服部君の背を押してくれるのは頼りになる先生、そして訳あり着物美人の百花さん。それぞれの特技を活かして怪異に立ち向かう二人の華麗なアクションも素敵です。
さらに名古屋の魅力も満載!三人が揃うと名古屋弁での会話が華やかでなんだかかわいい!(笑)そしてあらゆるシーンで読者の胃を悩ませる名古屋メシ&スイーツの猛攻。ああ、今すぐ名古屋に行きたい‼︎いや絶対行く‼︎‼︎
まだまだいくらでもご紹介したいところがたくさんですが、もうあとはご自身の目で確かめてください。☆の数が語るように、本当に魅力がいっぱいの作品!続編もあるのでキャラクターたちを長く愛していけそうです。
ふしぎな事件の裏側にあるのは、いつも誰かの寂しい心。そんな迷子になった心をすっと掬って優しく抱きしめてくれる、最高のヒューマンドラマです。
――読んでないなんて正直、勿体無いですよ?
樹神探偵事務所で助手をしている主人公、服部朔は共感応の特殊能力を持っている。そんな彼が、雇用主である皓志郎と調香師・百花と三人で依頼のあった怪異事件の調査に乗り出し、事件を解決してゆくミステリー調現代伝奇。
現世と幽世の狭間を往復したり、生霊や死霊が出てきたりするが、薄気味悪い、後味悪いレベルなのでホラーが苦手な方でも問題なく楽しめるエンタテインメントだと思う。
死霊の怨念や生霊の思いが渦巻く世界観。
そんな中、朔は己がどうあるべきかを問い掛け、一歩一歩歩き出す。
さり気なく入ってくるB級グルメの飯テロあり。
最初から最後まで通して読むと、全て繋がっているという仕立て。
全体的に読みやすい構成で、気が付くとあっという間にすらすらと全話読めてしまう。
夢枕獏の「陰陽師シリーズ」がお好きな方にオススメ。
今作は主人公の服部少年の一人称で進んでいきます。
だからこそ、彼の見たもの感じたものがダイレクトに伝わってきます。気付いたときには彼の心と「共感」してしまっているのです。それは作者・陽澄さんの技量もさることながら、服部少年自身が思わず応援したくなるような等身大の少年だからなのでしょう。
一方で物語は、読み易い短編連作の形で進んでいきます。四つの短編からなる物語ですが、すべてが繋がっていて、いつの間にやら長編の様相を呈していきますから、読み応えも抜群です。
そして名古屋メシ。各章に必ず登場する名古屋メシは、どれも絶妙なリアリティで描かれていますから、馴染みのある方には共感を呼び、食べたことのない方はきっと食べてみたいと思うこと請け合いです。
読了後、泣き過ぎて茫然としていた自分がいました。
ああ、最高な物語……!!
この作品は、不可思議な怪奇事件を名古屋にある探偵事務所が解決していく短編構成のお話となっています。
この短編構成というのもかなり読みやすいですし、物語の面白さから次々に読み進めてたくなる本作です。その面白さから大興奮しすぎて、うっわコメントしたい!!けど続きを一刻もはやく読みたい!!!とすっごい葛藤している自分がいました。
そんな冷静さを掛けさせてくれるこちらの物語、まーーた登場人物もほんとーに魅力的で。
主人公は服部くんという高校生で、探偵事務所のオーナーな伊達男、樹神先生の助手として働いています。そして、その脇には百花さんという、これまたかっこよくて優しい和装美人な女性が控えており、この3人を主軸としてお話が進んでいきます。
様々な怨霊たちとのバトルシーンも圧巻でもうめちゃくちゃピリピリとした空気感が読者である私にも伝わって来て、ハラハラドキドキなんです!
不思議な世界のお話のようにも見えますが、令和時代ならではのすっごく納得の行く物語が練られており、めちゃくちゃリアリティがある展開、戦闘で、ファンタジーや架空の物語を普段読まれない方にもすっごくおすすめしたいです!
そして各章のラストには必ず涙、という。どの章もマジで大泣きしてましたが、特にラストの章は後半ずっと右手にティッシュ握りしめて読んでました。
敵である怨霊たちもほんとに魅力的で、その隠された真実に思わず涙。
とにかく各人物それぞれに抱え込んでいるものがあり、共感の嵐に見舞われました。泣くしかないやん……
興奮しすぎてはちゃめちゃなレビューになりましたが、これが言いたかったんです。とにかく読んでえええ!!!
こちらの作者さんは読ませる物語を書くのがお上手なのですが、今作もとても面白かったです!
生者であれ死者であれ、他人の感覚を自分のように感じてしまう共感能(エンパス)を持つ男子高校生の服部 朔は、幼い頃から自身の能力に悩み、苦しんできました。
彼はひょんなことから怪異的な事件を解決する探偵事務所でバイトすることになり、樹神(こだま)先生の助手として様々な事件に遭遇します。
こちらの作品は連作短編という形で書かれていますが、全体を通してきちんと起承転結の流れになっている所が秀逸。
事件に遭遇する度に服部少年は相手に共感し、悩み、そして頼りがいのある樹神さんと百花さんという大人二人に導かれて少しずつ成長していきます。
最終章での服部少年の活躍に胸が熱くなるのは、これまでの章の積み重ねがあったからこそ。
誰もが知るわらべ歌をモチーフにした導入で読者をぐっと引き込み、事件の全容が紐解かれていくに連れて明らかになる、人間たち(怪異達)の弱さや苦しさには服部少年同様共感せずにはいられません。
怪異を扱う為、ゾワッと背筋が震えるシーンはあるものの、どの事件も最後はきちんと綺麗に落としてくれるのでとても気持ちのいい読了感を得られます。
一見胡散臭い(?)イケオジ探偵と少年のバディもの、読み応えのある作品を読みたい方におすすめの一作です!
あらすじや本編の面白さについては、先にレビューされている皆さんの紹介が秀逸で面白さが保障されているので、別の切り口でお薦めポイントを。
とにかく読みやすい構成。大きなエピソードを章として、章の一話目に事件の当事者に起こった出来事が描かれ、主人公たちの登場は二話目からというパターン。エピソードが大きなひとつの事件の塊となっているので、事件発生から解決までを一気に読めるのですが、全ての章を通しての大きな事件のつながりもあり、一つの事件が終わったら全てスッキリとはならず、続きが気になって次々にページを繰る感じになります。
読了したときに自分が十万文字以上を読んでるという感覚がなかったです。面白い体験は時間が経つのが早いのと同じように、面白い作品は長さを感じさせないというのを実感した作品。むしろもっと読みたいとさえ。今作はわらべ歌がモチーフでしたが、別モチーフでもシリーズ化して欲しいと思いました。
怪異ホラー要素としてはなんとなく気味が悪いという感覚の系統なので、ホラーが苦手という方も読めるのではないかと思います。人間ドラマの要素がかなり強く、人の心の弱さと強さの描写も見どころです。
タイトルでお分かりの通り、名古屋という場所を舞台にしたこちらの物語。
探偵事務所の助手を務める高校生の服部朔君が主人公となります。
その探偵事務所に持ち込まれるものは実に不可思議な依頼。
怪異によって引き起こされた事件を所長である樹神先生、そして儚く美しい魅力を湛える美女の百花さんともに服部少年は自らの持つ力『共感応』を用いて解決へと向かうことになります。
若いがゆえの葛藤。
本来は持たざる力を持ってしまった悩みを抱きつつ、彼は時に苦しみ、時に己と向きあいながら事件を通じて出会っていく人々との交わりを経て少しづつ、でも確実に前へと進んでいきます。
様々な出会いや経験を通じ彼が何を手にしていくのか?
何を知っていくのか?
こちらの作品を読み終えた後に、彼と共にその答えを知り、思いに浸る経験を是非皆さまにも体験していただきたく思います。
―—怪異を専門に扱う『樹神探偵事務所』。
その所長で特殊な能力を持つ樹神皓志郎。「共感応」という能力を持ち、助手をしている服部朔。異能調香師という妖艶な和服美女・百花。
彼等三人を軸に物語は進んで行く——。
日々持ち込まれる難解で、怪異を伴った不思議な事件。それらは、わらべ歌にリンクしているという。「かくれんぼ」「かごめかごめ」「あめふり」「指切り」に因んだ各怪異事件。
謎を追っていると、日常から非日常へと突然転移する。その場所は夕焼け空に似た赤い不思議な世界。そしてその場所は、行き場のない、悲しみや苦しみが念となって襲い掛かってくる幽世と現世の狭間の世界だという。
各話に隠された謎を紐解いていくと、それは決して憎しみだけでは無い。悲しさや苦しみの感情が混在している。それらを解き放つ為に、彼らは特殊な能力を駆使して奮闘している。
独特の語り口調と、丁寧な文章表現。練り込まれた怪しげで、どこか儚く感じる世界観。登場人物の描写が秀逸で、魅力的な各人物の息遣いまで伝わってくるようです。
内容は連作短編。ホラー&ミステリーでもあり、ヒューマンドラマでも有ります。
各冒頭では、ゾワリと来るような恐怖が存在しているが、エンディングでは、心に染み入るような感覚が待ち受けています。夕焼け小焼けの茜色の空の下。味わい深い名古屋の方言。食欲をそそる名古屋メシ。まさにノスタルジー溢れる物語に吸い込まれていきそうです。
読後、物語からくる強烈なエンパスを貴方はキッと感じ取るはずでしょう……!
他者の心の感情をまるで自分の身に起きたかのように受信してしまう主人公の服部 朔。
彼は知る人ぞ知る、ちょっと通常の依頼とは異なった事件を解決するという『樹神探偵事務所』で助手をしていて——。
ひと癖もふた癖もありそうな、先生・樹神探偵に、謎の雰囲気を醸し出す和服の美人。
巡り歩くは怪異奇譚と名古屋の美味しいグルメ。
もうこの緩急が堪らないのです。
夕刻に読めば、物語の雰囲気、柔らかな名古屋の方言、夕焼け空と名古屋グルメの匂いに読者が誘い込まれそうな物語の数々。
人々を薄明かりの向こうへ引き込むのは、誰もが知っている童謡でもあって……。
現世と幽世、誰そ彼とわからぬその狭間の世界。
怪異に関わりつつ、十七歳の少年らしい心の揺らぎや葛藤を抱えながらも服部少年が前に進んでいく姿には、読んでいるこちらが心の底から応援し、また共感して共に歩みたくなります。
彼の心に、怪異事件に、"彼は誰時"は訪れるのか。
それはあなたのその眼で……しかと見届ける事をオススメします。
まだまだ続きを見たくなるような、とても素敵な物語です。
物語の導入は誰もが耳にしたことのある童謡。
そのメロディーに導かれるように不思議な事件が発生します。
それを解決するのは怪異を専門に扱う探偵の樹神先生。
ハンサムなんだけれど、かなり残念な性格という変わり者。
そんな樹神をサポートするのが、主人公、しっかり者の高校生の朔(はじめ)君。
もうこの二人のコンビネーションが抜群に楽しませてくれます。
さらに朔くんは他人の感情をそっくりわが身に受けてしまう特殊能力の持ち主。
もちろん樹神先生もただものではありません。
さらにさらに妖艶な和服美人のモカさんも登場し、大変にぎやかな顔ぶれとなっています。
物語はそれぞれが独立した短編が連作としてつながっています。
どのエピソードにも人の感情がまざまざと描かれ、読み応えがあります。
基本的にはホラーなのでしょうが、それ以上に人間ドラマがしっかりと描かれているのが本当に素晴らしいと思いました。
読みやすい文章と雰囲気のいい語り口、物語を盛り上げていく抜群の構成力はこの作者様の持ち味で、今回もいかんなく発揮されていました。
そしてなんといっても読後感の良さ! エンディングを読み終えた時の満足感みたいなものが本当にいいんです。
そうそう、この物語のもう一つの魅力は名古屋グルメですね。
名古屋グルメにはあまり縁がなかったのですが、名古屋に移住したくなりました。
ホラーの雰囲気たっぷりに、個性的な師弟コンビが活躍する、とにかく読んで楽しい物語です。
ぜひとも読んでみてください!
名古屋駅から私鉄で二駅ほど。ちょっと離れた場所にあるその探偵事務所は、ふつうの事件は扱わない。
樹神(こだま)探偵事務所。そこは怪異な事件のみを扱う特別な探偵事務所だ。
所長の樹神探偵は、ちょっと気障な洒落者。カッコつけが空回りしている。
助手の服部少年はまだ高校生。その能力は不安定で、能力者としても半人前。いろいろと悩みも多い。
この二人が、それぞれの霊的な能力をもちい、この世とあの世の狭間の怪事件を解決してゆく。
物語は、連作短編形式。「かくれんぼ」のように人が消える失踪事件や、「あめふり」の歌とともに人が神社の階段から突き落とされる事件を追う探偵と助手。だが、やがてこれらの事件の影に、それらを繋げる一本の糸が見え始め……。
いずれの事件もこの世とあの世の狭間に謎があり、生者と死者のしがらみが怪異を呼ぶ。その生と死を分かつように、物語に挿入される名古屋飯も魅力のひとつ。
生と死を隔て、生きることの象徴である飯を腹いっぱい掻っ込み、ご当地名物のお菓子を頬が落ちるまで堪能する。生きることは食べること。生きるために食べる。
ここに描き出されるのは、生と死であり、ホラー&ミステリーである。
と同時にこれは、生と死があいまいな黄昏の世界にのめり込みつつ、それでも自分を探し、自らの居場所を得ようとあがく一人の少年の成長の物語でもある。
名古屋に実在する場所を舞台にしつつも、現実世界とは一線を画す妖の事件を追う樹神探偵と服部少年。
現世と幽世の狭間で起こる不思議な事件を解決できるのは、この探偵と助手だけである。
名古屋を舞台に、童謡に纏わる怪異譚の数々。
そういった事件を特殊な能力を持つ探偵と助手が解明していく、連作短編形式のお話です。
主人公の男子高校生・服部朔は、己の持つエンパスなる能力に苦しみ続けた結果、大変自己肯定感が低い子に育ってしまいました。
こうなるのも仕方ないな……と納得できるほど悲しい背景が彼にはあるのですが、その能力をコントロールする術を教えてくれた探偵、樹神皓志郎先生の側で助手として様々な怪異に触れる内に、少しずつ成長していきます。
もうね、その姿を母のような気持ちで見守ってしまいましたよ。ずっと俯き加減だった彼がゆっくりと顔を上げて前を向いていく様を、気付けば心から応援していました!
また遭遇する怪異の裏には、恐怖以上に悲しみややるせなさなどが満ちています。
それもそのはず、『相手』は我々と同じ『人間』なのですから。
たとえ朔のような能力がなくても、我々にも『共感』できる。相手の痛みを苦しみを、どうにもできなかった後悔を、自分のもののように捉え、様々な感情が揺り動かされるはずです。
読み終わった後、切なさと共に、もっと誰かに優しくなりたいという気持ちが芽生えているのがその証拠。
そして最後に一つ注意を。
このお話の飯テロ、本当にやばいです!
食後だろうと夜中だろうと、確実にお腹が空きます!!
その点だけは皆様どうかお気を付けて(笑)
他人の感情を我がことのように受信する、共感応――エンパスという能力を持つ高校生・服部朔は、名古屋の雑居ビルで探偵業を営む男・樹神皓志郎とともに、非現実の世界で起きた事件の調査を行っています。異能調香師の和装美女・百花の手も借りながら、現実世界とは階層が異なる幽世で、事件を解決していくうちに……名古屋で頻発している事件に関連性が見え始め、主人公たちを大きな事件へと導いていきます。
人に害をなす怪異の怖さ、美味しそうな名古屋めし、温かみのある方言……本作の見どころはたくさんあります。中でも私がおすすめしたいのは、他者の心が己に筒抜けになってしまう体質ゆえに、他者とも己とも適切な向き合い方に難儀している主人公・服部くんの成長です。
声に特殊な能力を持つ樹神先生や、ふんわりとした雰囲気でありながら独特の色気を持つ百花さん、それから事件を通して出会った依頼人の予備校生、服部くんの妹に、その友達……多くの人たちと関わりを持つ中で、その時々の感情を心の栄養に変えて、いつしか前を向いて進み始めた服部くんの成長には、目覚ましいものがありました。エンパスという特別な体質ではなくとも、自他との関わり合いに苦悩した経験を持つ多くの方々が、彼の葛藤に共感できるのではないかと思います。
読み終えた時、幸せな読後感に包まれました。多くの登場人物たちのさまざまな感情に共感できた、素晴らしいお話でした。