共感応の力で事件を追う! 怪異と名古屋めしと男子高校生の成長譚
- ★★★ Excellent!!!
他人の感情を我がことのように受信する、共感応――エンパスという能力を持つ高校生・服部朔は、名古屋の雑居ビルで探偵業を営む男・樹神皓志郎とともに、非現実の世界で起きた事件の調査を行っています。異能調香師の和装美女・百花の手も借りながら、現実世界とは階層が異なる幽世で、事件を解決していくうちに……名古屋で頻発している事件に関連性が見え始め、主人公たちを大きな事件へと導いていきます。
人に害をなす怪異の怖さ、美味しそうな名古屋めし、温かみのある方言……本作の見どころはたくさんあります。中でも私がおすすめしたいのは、他者の心が己に筒抜けになってしまう体質ゆえに、他者とも己とも適切な向き合い方に難儀している主人公・服部くんの成長です。
声に特殊な能力を持つ樹神先生や、ふんわりとした雰囲気でありながら独特の色気を持つ百花さん、それから事件を通して出会った依頼人の予備校生、服部くんの妹に、その友達……多くの人たちと関わりを持つ中で、その時々の感情を心の栄養に変えて、いつしか前を向いて進み始めた服部くんの成長には、目覚ましいものがありました。エンパスという特別な体質ではなくとも、自他との関わり合いに苦悩した経験を持つ多くの方々が、彼の葛藤に共感できるのではないかと思います。
読み終えた時、幸せな読後感に包まれました。多くの登場人物たちのさまざまな感情に共感できた、素晴らしいお話でした。