静謐を司る魔女・リヴェレークと、戦火を司る聖人・ルフカレド。相反する性質を宿す二人の「人ならざる者」は、ひょんなことから出逢って間もなく婚姻を結び、ある時は数多の物語の世界へ迷い込み、ある時は仲間たちと共に温かな食事に舌鼓を打ちながら、一人ではなく二人で紡いでいく幸福について、深く思考を巡らせていきます。
形式的な繋がりではなく、確かな温もりを伴った絆を育んでいく二人の歩みは、時の流れのように穏やかで、静謐な時間を過ごしてきたリヴェレークの無垢な透明感を、優しい色彩で染めていきます。かと思いきや、不意打ちで襲ってくる悲劇のように苛烈な試練が、二人の前に立ちはだかり、幸福への道のりを脅かします。
けれど、透明に新たな色が付与されても、彼女の在り方や魂が濁ることはありません。一人分ではなく二人分の色彩を輝かせた強靭さが、魔女と聖人の歩みを前へ前へと押し進めていきます。
人であれ、人ならざる者であれ、誰かのことを想うことや、幸せになりたいと願うことに、垣根など存在しないということを、美しい筆致で柔らかく伝えてくれるような、慈しみに溢れた物語でした。この世界ならではの食事や風景の描写も必見で、ここではないどこかなのに、魔女と聖人たちの団欒の場に招かれたような温かさが、とても心地よかったです。
ぜひ、人ならざる者たちが織り成す幸福の物語を、皆さまにも繙いていただければと思います。きっと、透明を染めていく日々の優しさが、誰かの光になるはず。おすすめです。
静謐の魔女リヴェレーク、戦火の聖人ルフカレド。
唐突な二人の婚姻から物語は始まります。
それぞれが備える要素は正反対に見えますが、相性は意外と悪くありませんでした。
趣味を楽しみ何処かズレた感性を持つリヴェレーク。苛烈で独占欲も強いルフカレド。
望まぬ婚姻から、徐々に夫婦らしく関係性や考えが変化していく過程が楽しいです。
奔放な妖精。世話好きな竜。書の迷い道。
幻想的で神秘的な、重厚に造り込まれた世界にも魅力されます。
エピソードの一つ一つが不思議で美しく、それを綴る表現力もまた圧巻。
人ではないキャラクターの独自の感性、自らの幸せを優先するリヴェレークの価値観も素敵なものです。
ファンタジー好きな方にオススメしたい一作です。
とある国の書庫の奥の奥、乾いたほこりの匂いと魔法の光に包まれたその場所で、いつも通りに過ごしていた彼女の元に届いたのは、不穏な争いの気配。
何とも唐突な出会いから、不思議な方法で婚姻を結んだ静謐の魔女と戦火の聖人。魔法に満ちた世界で、人とは違う彼らが少しずつ互いを「揺らし」ながら絆を育んでいく様子は本当に不思議で美しく、それを紡ぐ言葉そのものが持つ想像力や豊かさを改めて感じさせてくれます。
何より静謐の魔女、という性質ゆえに孤独の影を常にまとっているように見える彼女は、それでもその長い時の中で倦むことなく、たくさんの素晴らしい物語やお気に入りのものを蓄えとして身のうちに積み重ね、友人たちがそう望んでくれた通り自分の幸福をまっすぐに肯定して生きています。
人とは違うのに、どこか人間らしいと感じてしまう彼女のそんなまっすぐな強さに元気をもらいつつ、他者と相対する時には苛烈で怜悧な聖人が、伴侶である魔女には翻弄しつつもされてしまう様子に思わずにこにこしてしまいます。
静謐と戦火、対極にある二人のどこまでも不思議で美しく、もだきゅんも満載な「嫁入り(?)からのセカンドライフ」。
今後がとっても気になる物語です。