その探偵事務所は、浮気調査や密室殺人は扱わない。だが……


 名古屋駅から私鉄で二駅ほど。ちょっと離れた場所にあるその探偵事務所は、ふつうの事件は扱わない。
 樹神(こだま)探偵事務所。そこは怪異な事件のみを扱う特別な探偵事務所だ。

 所長の樹神探偵は、ちょっと気障な洒落者。カッコつけが空回りしている。
 助手の服部少年はまだ高校生。その能力は不安定で、能力者としても半人前。いろいろと悩みも多い。
 この二人が、それぞれの霊的な能力をもちい、この世とあの世の狭間の怪事件を解決してゆく。

 物語は、連作短編形式。「かくれんぼ」のように人が消える失踪事件や、「あめふり」の歌とともに人が神社の階段から突き落とされる事件を追う探偵と助手。だが、やがてこれらの事件の影に、それらを繋げる一本の糸が見え始め……。

 いずれの事件もこの世とあの世の狭間に謎があり、生者と死者のしがらみが怪異を呼ぶ。その生と死を分かつように、物語に挿入される名古屋飯も魅力のひとつ。
 生と死を隔て、生きることの象徴である飯を腹いっぱい掻っ込み、ご当地名物のお菓子を頬が落ちるまで堪能する。生きることは食べること。生きるために食べる。
 
 ここに描き出されるのは、生と死であり、ホラー&ミステリーである。
 と同時にこれは、生と死があいまいな黄昏の世界にのめり込みつつ、それでも自分を探し、自らの居場所を得ようとあがく一人の少年の成長の物語でもある。

 名古屋に実在する場所を舞台にしつつも、現実世界とは一線を画す妖の事件を追う樹神探偵と服部少年。
 現世と幽世の狭間で起こる不思議な事件を解決できるのは、この探偵と助手だけである。



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