救われたのはきっと、子供の頃の私だ

『歌は呪文みたいなものだよ。例え発信者が意味を知らずとも、受信者が聴き取った形で効力を発揮する――』

作中のこの台詞こそが、物語の中核にあるのではと思いました。

幼い頃に何となく刷り込まれていた、耳馴染みのある童謡・遊び歌が、その俗説を辿っていくにしたがって、だんだんと不穏な旋律に聞こえてきます。
懐かしく、親しみのあるメロディーを聴いていたら、知らぬ間に不協和音が入り混じってきて、名古屋飯コメディドラマが心霊ホラーへと転調されていくゾクゾク感には、もはや快感すら覚えました。

依頼人だけでなく、登場する怪異にも、それぞれ人間味のあるドラマが内包されていて、依頼人との共鳴の中で、その悲鳴や慟哭が、胸の深いところまでズゥンと響いてきます。

なんでこんなにも自分が苦しんでいるのか分からない。でも、本当の原因を知ってしまったら、もっと辛い想いに蝕まれてしまう気もする。知ってしまいたい、でも知りたくない。もう悩みたくない、忘れよう。

この『共感応トワイライト 〜なごや幻影奇想ファイル〜』には、人間関係へのやり切れなさと、家族でも友人でもない「隣人」による救済が描かれています。

人は、人によって傷付けられるのに、人によってその傷を癒やされることもある。
単純な人間讃歌ではありません。悪に犯され、善意に押し潰され、どこにも吐き出せない憎しみに苛まれることもある。
でも、人生の道半ばで背負ってしまった重石を、信頼のおける「隣人」と抱え合うことが出来れば、あなたはもっと楽に生きられるはず。

主人公の服部 朔は、忸怩たる想いを抱えた彼ら怪異たちの、深層に秘められた無念の声を聴くことで、彼らを成仏させていきます。
でもその救いにしたって、師匠である樹神 皓志郎や、異能の先輩である百花さんの協力があってこそ成し得たことなんですよね。誰かによって助けられた者が、今度は誰かを助けていく。人に傷付けられてもなお、怪異にならないようにするためには、人の助けが必要です。

どうか、あなたの想いも成仏しますように。

陽澄すずめ先生による、温かい祈りの唄が聞こえてきて、気が付けば泣いているような小説でした。

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