ジェネクトシステムによる「死に帰り現象」というのが、本作の中心軸にあります。戦死した兵士は、まるでゲームの残機キャラのように、同じ能力・ほぼ同じ記憶で蘇り、また同じパートナーと出撃していくわけです。(厳密には3分間のラグがあり、3分前の記憶で再誕します。)
彼女(一部は彼)らは「第二の人類」と呼ばれており、ポストヒューマンSF群像劇の主役を演じ、終わりの見えない戦時中を生きて、愛して、散っていきます。
主体の連続性こそが個人を特定する世界で生きる我々からしたら、「死に帰り」なんて凄い怖いことなんですが、登場するキャラクター自身はこのシステムに慣れきっており、それが「日常」として描かれているんですよね。
まるで零戦で突っ込んでいく特攻隊のような世界観が、SF的想像力によって『死に帰り』してきたかのようです。人類再興のため、無茶なミッションを受け続ける彼女たちに、悲壮感はさほどありません。
短編連作形式なので、それぞれ話の収まりが良いです。ハードSF小説は分厚い文庫本を最初から最後まで読まないと物語的カタルシスが味わえないなんてケースが多々ありますが、その点で本作は読みやすい部類に入るでしょう。
けれどSFファンは侮ることなかれ。技術設定、世界設定は本格派ハードSFです。ジェネクトシステムがあることによって生成された、戦場の中のセンスオブワンダーを存分に味わうことが出来ると思います。
ロボットものですが、いわゆる「スーパーロボットもの」のような、謎理論トンデモウェポンはありません。ランスガンという比較的射程の短めな武器を用いて泥臭く近接戦闘を挑み、パイロットの技量を最大限に活かして、敵(超巨大生命体)を駆逐します。そこが渋い! でも技術的限界があった方が、リアリティは増しますよね。
軽いノリの百合コメディが、良いアクセントになってます。重苦しい戦場での空気感とは正反対に、少女たちは「今」を精一杯に明るく楽しもうとします。やがて訪れるであろう、リセットの恐怖を忘れようとするかの如く。
悲痛な結末の話もありますが、SFドラマとして見ると、それもまた味わい深い苦味でした。この切なさは、SFだから味わえるのだと胸に沁みます。
埋もれた傑作です。もっと評価されるべき。
こちらの短編集は『ディストピア世界に於けるSFロボット戦記物』であり、同時に少女たちの心の交流を丁寧に描いた『百合』作品群でもあるという、一粒で二度美味しい仕様となっています(ちなみに男の子もちゃんと存在します)。
簡単に物語全体の骨子を解説すると、以下の通りとなります。
――人類が滅亡した遠い未来。
『大銀河文明連帯』に集う異星人たちは、滅亡した人類を『第二の人類』として再生する。
蘇った第二の人類に、『大銀河文明連帯』の異星人達は、全宇宙共通の強大な敵『時空厄災』との戦闘を持ち掛ける。
結果、蘇った第二の人類は仮初めの繁栄と共に、何時終えるとも知れぬ『時空厄災』との継続的な戦争状態に突入するのだった――。
これが全編共通の設定であり、この様な世界観の元、複数の登場人物たちが、それぞれに悩み、苦しみつつ、己の人生や運命と向き合うという、そんなお話となっております。
このお話に登場する第二の人類は、仮に戦死したとしても記憶と知識を完璧に引き継いだクローンとして蘇る事が可能であり、いわば疑似的な不死性を獲得しているという、そんな特徴があります。
例えば、チーム単位で『時空厄災』と戦闘を行い、チームの半数が死亡したとしても、じきに完璧な記憶を保持するクローンが再生される為、チーム的には人的損失が発生しないという仕組みが構築されている、という感じです。
この記憶を引き継いだクローンによる不死性ですが、実際のところ、第三者的にはクローンで蘇り続ける第二の人類を見ると、不死の状態として観測されるかもですが、しかし死亡した当人の、個体としての連続性は死を迎える毎に断たれているわけで、死後の己をどうやっても観測する手段など無く、ここにクローンによる不死性の欺瞞、或いは構造的欠陥が垣間見えるという、そしてこの部分にこそ、この短編集の面白さ、妙味が詰まっているのだと感じる次第です。
要するにこのクローンによる不死性とは、人類種をひとつとして考えた場合、良く出来た種族維持システムである反面、人類種を常に完璧な状態で維持出来るのだから、個人の一時的な死は軽くなっても良いという、この社会の歪さを反映したシステムに他ならないという、そういう事なのではという感じです。
ただ、このクローンによる不死システム、この世界は戦時下にあるわけで、ある意味仕方の無い部分も在るのですが、それでもそんな非常事態に於いても人間は人間なわけで、日本で安全に生活する僕ら的には、個人の権利は守られるべだという視点も発生するし、どこの誰とも知れぬ者たちの代理戦争を行うのかという憤りも感じるわけで、この辺りのやるせなくも悲しい社会構造に、なんとなく現代社会の「朝起きて働いて夜寝てを繰り返した挙句に寿命で死ぬ」という、そんな人生マジかよという諸行無常さにも通じる様で、この解決しない問題提起に想いを馳せる事にこそ、この物語の楽しみ方なのだろうなあと思った次第です。
非常に丁寧な筆致にて書かれたお話、一読の価値が在ります。
読んで損の無い名作だと感じた次第です。