人の魂は誰のモノか。ハイブローなSF短編集。

こちらの短編集は『ディストピア世界に於けるSFロボット戦記物』であり、同時に少女たちの心の交流を丁寧に描いた『百合』作品群でもあるという、一粒で二度美味しい仕様となっています(ちなみに男の子もちゃんと存在します)。
簡単に物語全体の骨子を解説すると、以下の通りとなります。

――人類が滅亡した遠い未来。
『大銀河文明連帯』に集う異星人たちは、滅亡した人類を『第二の人類』として再生する。
蘇った第二の人類に、『大銀河文明連帯』の異星人達は、全宇宙共通の強大な敵『時空厄災』との戦闘を持ち掛ける。
結果、蘇った第二の人類は仮初めの繁栄と共に、何時終えるとも知れぬ『時空厄災』との継続的な戦争状態に突入するのだった――。

これが全編共通の設定であり、この様な世界観の元、複数の登場人物たちが、それぞれに悩み、苦しみつつ、己の人生や運命と向き合うという、そんなお話となっております。

このお話に登場する第二の人類は、仮に戦死したとしても記憶と知識を完璧に引き継いだクローンとして蘇る事が可能であり、いわば疑似的な不死性を獲得しているという、そんな特徴があります。
例えば、チーム単位で『時空厄災』と戦闘を行い、チームの半数が死亡したとしても、じきに完璧な記憶を保持するクローンが再生される為、チーム的には人的損失が発生しないという仕組みが構築されている、という感じです。

この記憶を引き継いだクローンによる不死性ですが、実際のところ、第三者的にはクローンで蘇り続ける第二の人類を見ると、不死の状態として観測されるかもですが、しかし死亡した当人の、個体としての連続性は死を迎える毎に断たれているわけで、死後の己をどうやっても観測する手段など無く、ここにクローンによる不死性の欺瞞、或いは構造的欠陥が垣間見えるという、そしてこの部分にこそ、この短編集の面白さ、妙味が詰まっているのだと感じる次第です。

要するにこのクローンによる不死性とは、人類種をひとつとして考えた場合、良く出来た種族維持システムである反面、人類種を常に完璧な状態で維持出来るのだから、個人の一時的な死は軽くなっても良いという、この社会の歪さを反映したシステムに他ならないという、そういう事なのではという感じです。

ただ、このクローンによる不死システム、この世界は戦時下にあるわけで、ある意味仕方の無い部分も在るのですが、それでもそんな非常事態に於いても人間は人間なわけで、日本で安全に生活する僕ら的には、個人の権利は守られるべだという視点も発生するし、どこの誰とも知れぬ者たちの代理戦争を行うのかという憤りも感じるわけで、この辺りのやるせなくも悲しい社会構造に、なんとなく現代社会の「朝起きて働いて夜寝てを繰り返した挙句に寿命で死ぬ」という、そんな人生マジかよという諸行無常さにも通じる様で、この解決しない問題提起に想いを馳せる事にこそ、この物語の楽しみ方なのだろうなあと思った次第です。

非常に丁寧な筆致にて書かれたお話、一読の価値が在ります。
読んで損の無い名作だと感じた次第です。

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