第26話
「……マリルリ、様。」
「……マリルリさ……ま。」
ヒューレッドとマリアは逃げる間もなく現れたマリルリに身体を堅くする。
「ふふ。そんなに驚かないでくださるかしら?私、言いましたよね?3秒であなたたちのところに行くって。ちゃんとに3秒だったでしょう?ああ、それより。それよりも。ねえ、マリア。聖女候補のあなたを蘇生したのはだぁれ?」
マリルリはヒューレッドに視線を移すことなく、ジッとマリアを見つめながら問いかける。どうやらマリルリの一番の感心はマリアを蘇生したのが誰かということにあるようだ。
マリアはマリルリと視線を合わせないように、スッと視線をそらせる。
「あらぁ。マリア。人と会話をするときは視線をあわせて会話をしなければならないと、聖女候補の講習会で教わったでしょう?ねえ、マリア。あなたも聖女候補だったのよ。それも、私よりも優秀とされた聖女候補。だから、マナーくらい守ってくださるでしょう?ねえ、マリア。私の目を見て。そしてあなたを誰が蘇生させたのか、私に話してちょうだい。」
マリアは唇を堅く結びマリルリを見ることも、マリルリの問いかけにも答えない。
「……はぁ。やはりマリアは聖女には相応しくなかった。そういうことでよろしいわね。でも、あなたを蘇生させたのが誰かとっても気になるの。あなたが教えてくれないというのなら、あなたの魔力に聞くけど、それでもいいかしら?」
「ぐっ……。」
マリアはくぐもった声を上げ、苦痛の表情を浮かべる。
「マリルリ様っ!!おやめくださいっ!!マリアが壊れてしまう!!」
「あらぁ。私の言葉に逆らうのだもの。壊れたっていいんじゃないのかしらぁ?」
魔力から相手の情報を知ること。それは、相手の心の中に土足で踏み込むようなものだ。踏み込んでずたずたに荒らせば、相手の心も壊れてしまう。相手の魔力を介して相手の考えていることを知ることはタブーとされていた。
とは、言ってもそんなことができるのは聖女くらいだったが。
「……くっ。」
「あらあら。なかなかしぶといわねぇ。」
「ああっ……。」
マリルリの唇の端がゆっくりと持ち上げられる。それと同時にマリアの顔が苦痛に歪む。
「やめてくれっ!!マリルリ様っ!!あなたが探していたのは俺でしょう!!どうして無関係のマリアにっ!!」
「そうね。私はあなたを探していた。でもね。マリアが生きていたのは誤算。ここで突き止めておかなければならないのよ。だから、ヒューレッド様は大人しく待っていてちょうだい。」
「あ……だ、だめぇ……。」
「ふふ。もうちょっとね。もうちょっとでわかるわね。」
マリアの身体から力が抜けていく。自分の身体を支えることもできないようで、マリアはその場に崩れ落ちた。
「マリアッ!!」
ヒューレッドは崩れ落ちて痙攣しているマリアを抱きかかえる。
「あらあら。見せつけてくれるわね。ヒューレッド様は私のものなのに。でも、いいわぁ。聖女候補のマリアを蘇生したのが誰だかわかったからそのくらいは大目にみてあげるわ。」
「マリア!マリア!!」
マリアは意識を失ったのか、手足をだらんと弛緩させヒューレッドの身体の上に倒れ込んだ。呼吸音も荒く全力疾走をしたかのように脈が速い。
「うふふふふ。ねえ、マリア。あなたを蘇生したのはやっぱりあのアルビノの女だったのね。そう。やっぱりそうだったのね。ねえ、マリア。あの女は聖女として覚醒したのかしら?覚醒したのよね?だから、あの女はマリアを蘇生することができた。そうよね。そうなのよね?あの女が私より先に聖女として覚醒したから、私が聖女として覚醒できなかった。そうよね?そうなのよね?忌々しいわ。あの女が。私、とっても怒っているのよ。あの女の所為で渡しの聖女としての力が覚醒しなかった。そうよね?絶対にそうよ。そうなのよ。アルビノなのに。できそこないなのに。あの女がいるせいで、私は本物の聖女になれないの。ねえ、とっても悔しいわ。私、とっても悔しいのよ。」
マリルリの言葉にヒューレッドはドキッとした。
マリルリの言葉はまっすぐにセレスティアに向けられている。マリルリが内に秘めるとてつもない憎悪をセレスティアに向けているからだ。
セレスティアの居場所をもしマリルリが知ったら、すぐにでもセレスティアを亡き者とするであろうことはヒューレッドにも想像できた。なにせマリルリは過去に聖女候補のマリアを亡き者としているのだから。
「ねえ、ヒューレッド様ぁ?あなたが私のものになっても、あの女が生きている限り私は安心できないの。そうなのよ。私は安心して聖女を務めることができないの。ねえ、わかるでしょう?私はあの女に生きていてもらっては困るのよ。だって、この国に聖女は二人もいらないのよ。一人で充分なの。わかるでしょう?それに、聖女は一国に一人しか産まれないのよ。あの女が聖女として覚醒してしまったからには、あの女が生きているうちは私は本物の聖女になれないのよ。わかるでしょう?ねえ、わかるでしょう?わかるわよね?わかってくれるわよねぇ?」
どこか狂ったかのようにマリルリは心のうちを吐露する。
マリルリから逃げたヒューレッドにあえてマリルリの心のうちを吐露している。それは、マリルリが話している相手がヒューレッドだと認識していないのか、それともなにか思惑があってのことなのか。
ヒューレッドはマリルリの考えがわからずに、マリアを抱き留めたままその場から動くことができなかった。
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