第22話
「はいっ!?」
「ええっ!?どういうことよ!」
ヒューレッドとマリアはフワフワの言葉に驚きを隠せなかった。
フワフワはセレスティアが無事なのを知っていたというのだ。
セレスティアと通信していたヒューレッドとマリアでさえ、セレスティアが無事なのか否かわからなかったのに、フワフワは無事なことを知っている。しかも、フワフワはヒューレッドの腕の中で寝ていたと思ったのにだ。
「フワフワ。セレスティア様は無事なんだね?」
「うん。そうだよ~。クロ姉がついてるから大丈夫なの~。でも、なんかねぇ~、セレスティアは魔法が使えないんだって。かんし?されてるんだって。」
「かんしというのは監視っていうことかしら?」
「そうかもしれない。マリルリは魔法の残滓を感知して対象がどこにいるか知ることができる。オレも、マリルリに居場所を悟られないように魔法の使用を禁止している。」
セレスティアもやはり聖女マリルリに目をつけられたようだ。
マリアとヒューレッドはそう受け取った。そして、マリルリから逃げるために魔法を使わないようにしているのだろう。
「とりあえず、セレスティア様は大丈夫ってことね。安心したわ。いったんマリルリから逃げてしまえばしばらくは大丈夫でしょう。魔法を使用しない限りはきっと大丈夫だわ。」
「……そうだね。」
セレスティアがひとまず無事だということを知ってヒューレッドとマリアはホッと胸をなで下ろした。
「でも、セレスティア様がマリルリに魔力を監視されているとするならば、もうセレスティア様と通信することはできないわね。下手に通信しようとすると魔力をマリルリが感知してしまうかもしれないわ。セレスティア様から通信が来るまではこちらからは、セレスティア様に直接連絡が取れないわね。」
「そうだね。しばらくはフワフワに連絡をとってもらう……か。」
「それがいいと思うわ。ねえ、フワフワ。ちなみにセレスティア様はどこに逃げたのかしら。」
セレスティアの魔力を監視されているため、マリアは直接セレスティアに連絡が取れなくなってしまった。ヒューレッドの魔力もマリルリに監視されているためヒューレッドも直接連絡を取ることはできない。そうなると、頼みの綱はフワフワだけになる。
「んー?なんかねぇ。木がいっぱいあるところ。クロ姉が一緒にいるの。穏やかで静かなとこなんだよぉ~。」
セレスティアと連絡を取るための頼みの綱はフワフワだけである。今のところ。
「……えっと。国内にはいるのかな?セレスティア様は自由に移動できないみたいなことを言ってたし。」
「東の大森林かしら。それとも西の迷いの森?」
「ちっちゃい生き物いっぱぁ~いなの。セレスティア様安全なの。」
何回も言うようだが、セレスティアと連絡を取れるのは、フワフワだけである。今のところ。
そのフワフワがこんな調子なのだ。
セレスティアが安全なことと、どこか木のいっぱいあるところにいるということくらいしかわからない。そして、セレスティアの側にはクロがいるということだけ。
つまり、今の状態ではマリアもヒューレッドもセレスティアと合流することは難しいだろう。方向すらわからないのだから。
「……セレスティア様が安全だということはわかったわ。でも、迂闊に魔法を使用できない。どこにいるかもわからないからすぐには助けに行くこともできない。それに、ヒューレッドというお荷物もいるし。」
「ぐっ……。オレだって魔法さえ使えればそれなりの戦力になると思うんだけど。」
ヒューレッドはマリアにお荷物と言われてグッと涙を飲み込んだ。
魔法が使えない王宮魔術師はお荷物にしかならないのは事実だ。特にヒューレッドは有り余る魔力で日々の生活ですら魔法頼りだったのだ。ヒューレッドから魔法を取ってしまったら一般男性よりも弱いだろう。
「でも、あなたの魔力はマリルリの監視対象なのでしょう?」
「ぐっ……。」
「やっぱり、セレスティア様の元に駆けつけるのは後回しね。まずはヒューレッドとかいうお荷物をイーストシティ共和国まで連れて行くのが先決ね。そして隣国で戦力を整える。」
「そう、だね。」
マリルリが監視できるのは国内のみだ。国外に出てしまえばマリルリの監視から逃れることができる。距離ではなく国内のみというのはどういった仕組みなのだろうか。
「そうと決まればすぐにイーストシティ共和国に向かうわよ。」
「でも、もう日が暮れる。明日の朝にした方がいいんじゃないか?夜は魔物も野党も出ると思うし。」
この世界は夜になると魔物が街道を闊歩する。不思議なことに街には入ってこないが。
なぜ街に魔物が入れないかというのは諸説ある。その中でも一番有力なのが歴代の聖女が街を守るための結界を張っているためだと言われている。
「……確かにそうね。慌てて移動して魔物にやられたらたまったものじゃないわね。仕方が無いわ。一刻でも早くイーストシティ共和国に行きたいけれど、仕方ないわね。」
「オレが魔法を使えれば君とフワフワくらいなら魔物から守りながらイーストシティ共和国に行けたんだけどね。」
「あんたそんなに強いの?」
「え?王宮魔術師なら普通だよ。」
「そんな馬鹿な。夜は強力な魔物が闊歩しているのよ。オークやオーガはもちろん、場合によってはワイバーンも出てくる可能性があるわよ。オーガなら奇襲をかければ魔術でもなんとかなるかもしれないけど、ワイバーンは無理でしょう。ワイバーンを一人で狩れるなんて人見たことも聞いたこともないわよ。」
「うーん。オーガくらいなら奇襲かけなくても大丈夫だよ。オレ、結界はれるから、オーガの攻撃は無力化できる。ワイバーンの攻撃も無力化できるから時間はかかるけど、一人でも討伐可能かな。」
ヒューレッドは過去の記憶を思い出しながら答える。
マリアはヒューレッドの返答に目を剥いた。
「ワイバーンの攻撃も無力化できる結界って何!?ワイバーンは物理攻撃以外にも、魔法も使うのよ!物理攻撃と魔法攻撃を同時に無力化できる結界なんて聞いたことが…………え。あ、あれ?そういえば噂で聞いたことがあるわ。物理攻撃と魔法攻撃を同時に無力化できる馬鹿げた結界を張ることができる王宮魔術師の話。誰も信じなかった嘘としか思えない馬鹿げた話が……。あれって、もしかしてヒューレッドのことだったのぉ!?」
マリアは馬鹿げた噂話を思い出した。あまりにも嘘くさい話だったからすぐに脳内から消したような話だ。なぜならば、魔法を同時展開するには通常の倍以上の魔力を使うのだ。普通の魔術師なら……いや、普通の王宮魔術師なら魔法を同時展開することはまずできない。できるはずがない。
特に結界は膨大な魔力を使うのだ。
だから、マリアは信じなかった。物理攻撃と魔法攻撃を同時に無力化する結界を張れる魔術師がいるだなんて。
「あ、うん。できちゃったんですよね。」
ヒューレッドはポリポリと頬を右手で掻きながら、暢気に返答する。ヒューレッドにとっては結界の二重がけなんてたいしたことではなかったのだ。すんなりできたから難しいことだとは全く思ってもみない。
「できちゃったんですよね。じゃないわよ!!そんだけ強いんだったらマリルリ倒せたんじゃないの?」
マリアは思った。結界を同時に張れるという馬鹿げた魔術の使い手ならば、マリルリなんかすぐに倒せたのではないかと。逃げることなんてなかったんじゃないかと。
「……え?いやいやいや。仮に倒せたとしても聖女の信者は多いんですよ!聖女であるマリルリを倒してしまったら悪者にされるじゃないですか!そうなると、罪もない人たちも巻き込むことになってしまいますし……。流石に個人的理由だけでマリルリを倒すことはできませんよ。」
「……ま、それもそうね。マリルリが正規の聖女じゃないってことも知っている人はほとんどいないし。今、マリルリを倒したら私たちお尋ね者よね。だから、セレスティア様もマリルリには迂闊に手を出せなかったのね。納得だわ。」
「戦力を整えるだけじゃなく、隣国についたらどうやってマリルリが本物の聖女じゃないってこの国の人たちに信じさせることができるか、だよね。本物の聖女様が私が本物ですって名乗り出てくれればいいのに。本物の聖女様はどこに……。」
「しゃがむのーー!!」
ヒューレッドがマリアと話していると急に甲高い声でフワフワが叫んだ。
それとともに、ヒューレッドとマリアの身体が地面にべたりと打ち付けられた。
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