第21話
ヒューレッドはマリアにお金を借りて、フワフワが所望した串焼きの肉を購入した。というか、串焼きの屋台の列にマリアとヒューレッドは仲良く二人で並んで購入したというのが正しい。
どこで何があるかわからないから、二人一緒に行動した方が良いとの判断だった。
「お肉~♪良い匂いなの~。早く早くぅ~。」
フワフワは購入したばかりの串焼きを見て、目をキラキラと輝かせている。もちろん、フワフワの分の串焼きは味付けなしで特別に焼いてもらったものだ。
香辛料がフワフワにとって良いものだか悪いものだかヒューレッドには判断がつかなかったということもある。
「はいはい。ちょっと待ってて。」
そう言って、広場のベンチにマリアと並んで座ったヒューレッドは、買ったばかりの串焼きを取り出し自分の口に入れた。
「あーー!!ヒュー酷いっ!フワフワのお肉!お肉食べたのー!!」
串焼きがヒューレッドの口の中に吸い込まれたのを見て、フワフワが抗議の声を上げる。
「はいはい。でも、まだフワフワは歯が生えそろってないから、堅いお肉は食べれないでしょ。今、かみ砕いて柔らかくしてるから。ちょっと待ってて。」
「お肉っ!!肉汁っ!!美味しい肉汁をヒューに盗られたっ!!盗られたのぉ!!」
ヒューレッドが歯が生えそろわないフワフワのために、串焼きを噛んで柔らかくしていると、フワフワから更に抗議の声が上がった。
その声を聞いて、ヒューレッドは「確かに……。」と後悔した。
美味しい肉汁はヒューレッドの口の中だ。フワフワに渡ることはないだろう。
フワフワに渡るのは美味しい肉汁が搾り取られた肉の滓だけだ。フワフワが怒ることも仕方のないことだと、やっとヒューレッドは思い至った。
だが、歯が生えそろっていないフワフワに串焼きを与えるのは噛み切れないため、喉に詰まらせる危険もある。
「あははっ。そうね、お肉は肉汁が美味しいものね。ねえ、あんたさ、その子ほんとに歯が生えそろってないの?」
ヒューレッドとフワフワのやりとりを側で見ていたマリアが笑いながら声をかけた。
「むっ。今朝はまだ歯が生えそろっていなかったんだが……。」
「そう。でも、その子魔獣なんでしょう?しかも、セレスティア様から借りてる特別な魔獣なんでしょう?魔獣の子は生育が早いと聞くわ。朝、生えそろっていなかった歯も、もしかしたらもう生えそろっているかもしれないわよ?」
「……そうなのか?」
朝見たときはフワフワの歯は生えそろっていなかった。それがたった数時間で歯が生えそろうものなのだろうか。ヒューレッドは不思議に思い、フワフワをまじまじと見つめる。
「そんなことより、美味しいお肉が食べたいのー!!」
フワフワは見つめられるよりも早くお肉が食べたくてヒューレッドに催促する。
「そういえば、朝はカタコトだったフワフワの言葉がはっきりしているような……。」
ヒューレッドは今になってから気がつく。
朝のうちはフワフワは単語をいくつかしかしゃべらなかったような気がする。それなのに、今はどうだろうか。流暢にしゃべっているではないか。
「……成長が早い、か。なあ、フワフワ、歯を見せてくれ。そしたらお肉をすぐにあげるから。……オレが一口食っちゃったけど。他のも食べたいの買ってやるから。」
「お腹空いたんだから、早くするの-。」
フワフワは文句を言いながらも、ヒューレッドに向かって口を大きく開いた。
フワフワの口の中を覗き込むヒューレッド。
「ああ……ほんとうだ。歯が生えそろってる。ははは……。」
「じゃあ、お肉ちょうだいっ!!いいよね?」
「そうだな。ほら。」
ヒューレッドが見たフワフワの歯は、綺麗に生えそろっていた。猫の魔獣らしく犬歯はとがっており噛まれたらいたそうだ。この分だと串焼きをそのままフワフワに与えても問題ないだろうと判断したヒューレッドは一口分かけている串焼きをフワフワの目の前に差し出す。
「わーい。いただきまぁ~すっ!」
元気な声とともに、フワフワは串焼きにかぶりついた。
「あんまがっつくなよ?いくら歯が生えそろってるからって、喉に詰まらせたら大変だからな。ゆっくり噛んで食べるんだよ。」
フワフワが食べる姿をハラハラとしながら見守るヒューレッド。そんなヒューレッドを横目に、フワフワは美味しそうに串焼きを食べ進める。
「その子、可愛いね。さすがはセレスティア様が育てた子だわ。にしても、私もお腹が空いちゃったから食べよう。……食べなきゃやってらんないし。セレスティア様の手助けもできないわ。」
「そうだね。落ち込んでいても始まらない。まだセレスティア様がマリルリに捕まってしまったのかもわからないし。……お腹が空いてたからさっきは悲観して取り乱してすまなかった。」
お腹が空いていると精神まで落ち込んでいく。
特に今までヒューレッドはそれほど苦労することもなく生きてきた。孤児ではあったが、しっかりとした孤児院だったため三食欠かさず満腹になるまで食べることができた。
両親がいない事実はあれど、孤児院のシスターたちはとても優しくヒューレッドを守り育ててくれた。
「……別に。…………ん!」
マリアはそっけなく言うと、胸元からごそごそと小さな袋を取り出し、それをヒューレッドの前に突き出した。
ヒューレッドはその袋を見て目を丸くして驚く。
「え?いいの??」
「ん!!あたしの気が変わらないうちに受け取ってよ!」
「ああ。わかった。ありがとう。」
ヒューレッドはマリアが突き出してきた袋を両手で大事そうに受け取る。そして、自分の懐にしまい込んだ。マリアが盗んだヒューレッドの全財産を。
「……もう盗られないでよね。」
「そうだな。もっと周りに気をつけるようにするよ。ご忠告、ありがとう。」
ヒューレッドは苦笑しながらマリアに告げた。
全財産を盗まれてお礼を言うのもおかしな話だが、ヒューレッドは少々世間に疎すぎた。それを身を以て教えてくれたマリアにヒューレッドは感謝する。
「おいしぃ~の!!ヒュー!もっと!!もっと食べる!!もっと食べるの~!!」
串焼きを全部食べきってしまったフワフワは興奮したように叫ぶと、ヒューレッドにもっと食べたいとおねだりを始めた。まだ小さい身体に大きな串焼きがよく入ったものだとヒューレッドは感心した。
「美味しかったみたいで、なにより。今度は何が食べたい?串焼きじゃなくて他にも美味しいものがあるかもしれないよ?」
あまりに嬉しそうにフワフワが言うものだから、ヒューレッドは嬉しくなりさらにフワフワに食べ物を与えようとする。
フワフワはヒューレッドの提案に目をキラキラと輝かせた。
「ダメよ。食べ過ぎじゃないの?ねえ、フワフワちゃん、本当にお腹空いてるの?」
だが、フワフワの食べ物を買いに行こうと腰を浮かしたしたヒューレッドをマリアが制する。
曰く、食べ過ぎだと。
「うぅ……。お腹いっぱいなのぉ。でも、でも、もっと食べたいの!!美味しいものもっともっと食べたいの!!」
「はいはい。初めて食べたお肉が美味しかったのはわかったわ。でも、お腹いっぱいの時に美味しいものを食べるより、お腹が空いた時に食べた方がもっと美味しく感じるわよ。」
「うぅ~。」
「それに、食べ過ぎるとお腹が苦しくなって辛い思いをするわよ。止めておきなさい。」
「うぅ……。わかったの。」
マリアの説得にフワフワが折れた。
すごすごと尻尾を身体に巻き付けて、ヒューレッドの膝の上で丸くなった。
「それにしても、フワフワちゃんはセレスティア様のことが心配ではないの?」
「確かに。」
フワフワはセレスティアに育てられた魔獣だ。いくら何もわからないまだ子供の魔獣だったとしても、母親代わりのセレスティアのことが心配にならないのだろうか。
ヒューレッドもマリアもフワフワはセレスティアのことをどう思っているのかとても気になった。
「ん-?セレスティア~?セレスティアは大丈夫だってクロ姉が言ってるから大丈夫なの~。」
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