第12話
「いったいここはどこなんだ?」
ヒューレッドはあたりをキョロキョロと見回す。
どうやら森の中にいるようで木々が生い茂っているが、10m先くらいに道のようなものが見える。その道を旅人が歩いているのがわかった。
だが、今まで王都から出たことがないヒューレッドはここがどこなのだかまったくわからなかった。
セレスティアに突然転移させられたヒューレッドは転移先すら教えてもらっていない。しかも転移したことにより方向感覚も狂ってしまっている。
道に出たとしても右に行けばいいのか左に行けばいいのかわからないような状態だ。
「でも、セレスティア様はオレがイーストシティ共和国に行く予定だったのは知っていたはず。もしかして、ここはイーストシティ共和国だったりするのだろうか。いや、でも憶測で判断するのではなく、誰かに聞いてみた方がいいか。……でも、ここはどこだと聞いても怪しまれるだけだよなぁ。どうしたものか。」
ヒューレッドが来たことのない場所なので、誰かに聞かなければこの場所がどこだかは把握できない。そう思ったヒューレッドは道を歩いている旅人と思われる人物に尋ねてみようとした。しかし、ヒューレッドは旅をしているというにはかなりの軽装である。もちものだって、剣とお財布くらいだ。長旅をしているような恰好にはとても見えないのだ。
それもそのはず。セレスティアに転移の魔法をかけられたとき、ヒューレッドはセレスティアの家でフワフワの世話をしていたのだから。旅に必要なものなど身に着けていなかったのだ。
愛用の剣もマントもセレスティアの家に置いたままだ。
お財布だけでも身に着けていてよかったとヒューレッドは安堵した。
『あっち。あっち。』
さて、どこに向かうべきかと悩んでいると、胸に抱いたフワフワが忙しなく身体を前に倒す。そして、前方に向かって前足を伸ばす。
「ん?どうしたんだ?お腹が空いたのか?」
『あっち、いく。』
先ほどセレスティアの家でフワフワはご飯を食べたはずだ。そう思ったがヒューレッドはフワフワが腕の中でむずがる理由がわからなくて、ついついお腹が空いたのかと尋ねる。
すると、フワフワは首を勢いよく左右に振った。
『あっち、いく。』
手を前方に伸ばしながらフワフワが声をあげる。
「ん?向こうに行けって?」
『うん。あっち、いく。』
「あっちに何があるんだ?」
『あっち、いく。』
フワフワはまだ言葉を喋りはじめたばかりなので、ヒューレッドはフワフワが何を言いたいのか要領を掴めないでいる。だが、フワフワが指し示す方に行きたいというのだけはわかった。
フワフワが指し示す方に何があるのかヒューレッドにはわからないが、ここにこうしてずっといるわけにもいかないことは確かだった。どちらに行っていいかもわからないのだから、フワフワにしたがってもいいのかもしれない。ヒューレッドはそう思ってフワフワの指し示す方に歩いていった。
フワフワが指し示す方に、ヒューレッドが歩いて行くと、そこには細く長く整備された道があった。人がすれ違えるくらいの狭い道だが、整備されているので森の中を歩くよりは断然歩きやすいだろう。
「フワフワ。ここに何があると言うんだ?」
整備されたただの道。ヒューレッドがそこにたどり着くと、フワフワは途端に静かになった。
疑問に思ったヒューレッドはフワフワに問いかけるが、フワフワは気にすることもなく、疲れたのかヒューレッドの腕の中で眠ってしまった。
「おいおい。ここに来たいって言っておきながら寝るのかよ……。」
ヒューレッドはため息をつきながらも、腕の中で眠ってしまったフワフワを優しい眼差しで見つめている。ヒューレッドはフワフワの頬を指先でツンツンする。
「しかし、フワフワが起きるまでここに立ってても仕方がないよな。道、だもんな。通行人の邪魔になっちゃうなぁ。仕方ない。このまま街がある方まで歩くか。……どっちに行けばいいかわかんないけど。」
ヒューレッドは左右を確認する。数名歩いている人はいるが、どちらに進めばイーストシティ共和国に近いのかは判別できなかった。
ヒューレッドは迷いながらも道を歩き出す。偶然にもヒューレッドは東に向かって足を進めようとしていた。
ドンッ!!
「きゃあっ!!」
「うをっ……。」
ヒューレッドは歩き始めようとしたところで背中に強い衝撃を感じた。
「ちょっとっ!道の真ん中で立ち止まってないでくれるかしら!おかげでぶつかっちゃったじゃない!」
「す、すまないっ。」
ヒューレッドにぶつかってきたのは、旅の様相をしたまだ若い女性だった。耳がとがっているように見えるのでエルフのようだ。赤く身体にフィットした服装が印象的だとヒューレッドは思った。
ヒューレッドは女性とぶつかってしまったことで反射的に謝る。
「ふんっ。今度から気をつけてよね!」
女性は、それだけ言うとさっさと歩いて行ってしまった。
「……なんだったんだ?あれ?」
ヒューレッドは去っていった女性の後ろ姿を見送る。
確かに、道の真ん中で立ち止まっていたのは悪いかもしれない。だが、ヒューレッドにぶつかってきたということは、あの女性は前を見ていなかったということだ。ヒューレッドだけが悪いわけではないのではないかと、ヒューレッドは女性が行ってしまった後にハタと気づいた。
だが、そのことで目くじらを立てるほどヒューレッドは子供でもない。
気を取り直して歩き出すことにした。女性が歩いて行った方向に。ヒューレッドもちょうどその方向に歩いて行こうとしていただけで、女性の後を追おうと思ったわけではない。
「……ん?」
ヒューレッドは歩き出そうとして、自分の身に起きた違和感に気が付いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます