第14話
「身分証明書と鞄の中身を見せなさい。」
しばらく列に並んでいると思ったよりも早く先頭にたどり着いた。
「すみません。あの、赤毛の女性を見ませんでしたか?その……彼女に……身分証明書とお財布を……。」
ヒューレッドは検問している門番に尋ねる。門番はヒューレッドを一瞥すると、哀れみの視線をヒューレッドに向けた。
「なんだ。お前もあいつに財布を盗られたのか。」
「お前もって……常習犯なんですかっ!?」
ヒューレッドが驚きの声を上げると門番は呆れたようにため息をついた。
「……はぁ。決まって警戒心の薄い奴から盗むんだよ。……その様子だと全財産を盗られたようだな。あのな、旅に出る時は財布一つに全財産を入れないで、財布を二つ三つに別けておくことだ。」
「うぅ……。」
今度から旅をするときはお財布を二つにわけておこう。そうヒューレッドは心の中で決意する。
「ま、次から注意するんだな。しかし、財布と一緒に身分証まで無くしちまったとは不運だなぁ。まあ、中で軽く質問させてもらって問題なかったらこのメンスフィールドシティに入っていいからな。まあ、あいつに盗まれるくらい間の抜けたお前なら問題ないと思うがな。」
門番はそう言って、メンスフィールドに入る門の横に設けられた部屋を指さした。ヒューレッドは「今後、気をつけます。」と苦笑しながら告げると門番に案内された小部屋に入った。
「ああ、いらっしゃい。お財布すられたんだって?お前、バッカだなぁ。しかもすられた財布の中に身分証明書が入っていたとか。大丈夫か?お前。今時商人の子供でも身分証の管理はしっかりとしているぞ。」
「ははは……。まさか赤毛に赤色の旅装束をしている女性にすられるとは思ってもみませんでした。目立つ格好をしてたから……。」
「まあ、そうだな。目立つ格好してて悪さを働いたら自分を捕まえてくださいって言っているようなもんだもんな。だが、一人旅なら十分気をつけるといいぞ。あまり知り合ったばかりの他人を信じすぎないようにすることだな。」
「うぅ……。反省してます。以後、気をつけます。」
小部屋の中にいたメンスフィールドの検問所の男性職員はヒューレッドのことを小馬鹿にしたような目で見つめた。
ヒューレッドは居心地が悪くなり早くここを出たくなった。
「みゅう!みゅう!!」
ヒューレッドの雰囲気を感じ取ったのか、ヒューレッドの胸元で眠っていたフワフワが甲高い鳴き声を上げた。
「みゅう!みゅう!!」
検問所の男性職員の目がヒューレッドの胸元から顔だけ出しているフワフワに向けられる。そしてその瞬間、男性職員の目が蕩けだす。
「おお。おお。可愛いなぁ。可愛いなぁ。こんな可愛い魔獣に懐かれてるのか。お前。いいなあ。」
「え。あ、はい。なんだか懐いてくれています。」
フワフワの姿を見るなり、検問所の男性職員の態度がガラリと変わる。厳つい容姿をしている男性職員だが、意外と可愛いものが好きなのだろうか。と、ヒューレッドは不思議に思った。
「みゅう!みゅう!!(お腹空いたよー。ヒューご飯!ご飯ちょうだーい!!)」
フワフワは男性職員の視線を気にすることもなく、ただオレを見つめて何かをうったえるようにただひたすらに鳴いた。
いったいどうしたんだろうかと、ヒューレッドは首を傾げ、それからフワフワがお腹が空いたのではないかと言う事に思い至る。
「すみません。この子、お腹が空いてしまったみたいです。あの、すみませんがご飯を食べさせてもよろしいでしょうか?」
「ああ!もちろんだよ。ここでゆっくり食べさせていいよ。で?何を食べるんだい?」
職員の男性は興味深そうにフワフワを見つめている。ヒューレッドにここでフワフワにご飯を食べるようにと言ったのも、男性のフワフワがご飯を食べるところを見たいという下心からであることは言うまでもない。
「えっと、フワフワはまだ赤ちゃんなので今は離乳食を与えています。基本的にはお肉を柔らかくしてから与えたり、山羊のミルクを与えたりしています。今は手持ちがあまりないので、携帯食の干し肉をふやかして与えようかと……。」
「な、なにっ!!?」
ヒューレッドがフワフワに与える予定の食事内容を告げると、職員の男性はガタッと勢いよく椅子から立ち上がった。
「ちょっと待ってろ!いいか、その可愛い子にご飯を与えるのはちょっと待っててくれ!絶対だからなっ!!男と男の約束だからなっ!!」
職員の男性は、そう大声で叫ぶと小部屋を勢いよく飛び出して行った。
「……なんなんだ、いったい?」
「ミュー―――。(お腹空いたよぉ。)」
フワフワはご飯が欲しくて寂しそうに一声鳴いた。
「お腹すいたよな。でも、待っててくれと言われてしまったし……。でも、フワフワがお腹を空かせたままじゃかわいそうだしな。……フワフワ、干し肉くらいしか今手持ちがないんだけど、これで我慢してくれるか?」
セレスティアにいきなり魔法で転移させられたため、フワフワにあげれるような手持ちの食べ物といったら干し肉くらいしかない。保存食のため少し塩味がきいているのが引っ掛かるが、他に与えられそうなものは今この場にない。
メンスフィールド市内に入れば、フワフワが喜んで食べそうなものも売っているかもしれないが、まだ一応身分証をすられてしまったということで取り調べ中だ。このまま勝手に出て行くわけにもいなかいだろう。
「みゅー。(仕方ないから我慢するのー。)」
フワフワはよっぽどお腹が空いているのか、食べられるのならなんでもいいようだ。
ヒューレッドは心の中でフワフワに謝罪して、干し肉を取り出し自分の口の中に放り込んで咀嚼した。
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