第9章 2話「神さまの見立て」
「そうだね、今のところはまだ大丈夫だろうね」
聖十郎の額に当てた手を離しながら、
「ほら!
得意げに天叢雲剣が続く。
「ありがとうございます。安心しました」
「そうだね。神剣様二人が太鼓判を押すんだ。大丈夫なんだろうね」
そう言うと僅かに微笑む牛王。
「よかったね、隊長くん」
聖十郎を改めて見ると、そう言った。
桑名江と牛王、二人が聖十郎の部屋を訪れたのは、彼の体調を心配してのことだった。
聖十郎が天叢雲剣に斬られたあの日以降、聖十郎の精神にミヅチが巣くっている――その事実はめいじ館に残った巫剣全員が知ることとなった。
本来であれば、人間の中にミヅチ――災禍が同居するなどあり得ないことだ。なぜなら人間の精神は禍魂――災禍よりもより低級な存在に憑かれただけで壊れてしまう。
しかし、聖十郎は今も普通に生活を送ることができている。
ただ、日々の体調の変化は隠すことができず、桑名江の提案で、一度しっかり診てもらうこととなったのだ。
「本当に、なんともなくてよかったです」
桑名江が安堵の声を漏らす。
「少し心配しすぎなんだよ。隊長くんだって毎日わたしたちと働いてるじゃないか」
「それはそうなんですが……」
牛王の言葉にいまいち納得のいかない面持ちの桑名江。
「心配してくれるのはうれしいが、俺だって巫剣使いの端くれ。ミヅチなんかに負けたりしないさ」
「ほら、本人もこう言ってるんだしね」
「主様は無理しすぎるところがありますので……」
それでも食い下がる桑名江に、憮然とした顔で天叢雲剣が返す。。
「君は、妾ちゃんたちの判断を信じないのか?」
「いえ、そういうわけでは――」
慌てて否定しようとしたところに天羽々斬が続ける。
「気にすることはないよ。君の優しさはよく知っている。それに診たのはわたしだからね。叢雲の言うことなんて気にしなくていい」
「えー! 羽々斬ちゃん、なんでそんな意地悪言うの!?」
天叢雲剣が抗議の声を上げるが、
「天羽々斬様の判断だし間違いないよ。天叢雲剣様ならわたしも少し考えたけどね」
それも牛王の軽口に消されてしまう。
「ねぇ、牛王吉光。君はもう少し妾ちゃんを敬ってもいいと思うよ?」
「敬ってますよ、天叢雲剣様。だからこうして『お二人』にお願いしたわけですし」
「そ、そうなのか……?」
「な、ならいい。ちゃんと分かってるなら、妾ちゃんも大目に見るよ!」
「ふふふ」
いとも簡単に丸め込まれる天叢雲剣の姿に思わず笑みがこぼれる桑名江。
「それじゃ、わたしたちは自室に戻るよ」
天羽々斬はそう言うと立ち上がり、天叢雲剣と共に部屋を出て行った。
離れと本館を繋ぐ廊下。
先を行く天羽々斬に天叢雲剣が声をかける。
「ねぇ、羽々斬ちゃん」
「なんだい、叢雲」
「本当のところは、どうなの……?」
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