第11章「普通の日」
第11章 1話「閉店作業の一幕」
この日、めいじ館はお客さんの入りも穏やかで、だから少し早めに店じまいを始めたんです。
客席の片付けは牛王さんと城和泉さん、厨房は桑名江さん。
めいじ館の巫剣さんたちのほとんどは、各地の支部に派遣されていて、だからめいじ館に残っている巫剣さんはその3人と小烏丸さん、庖丁ちゃんたちに稲葉郷さんと鉄砲切りさん、それと何人かくらいでした。
わたしと八宵も残ってはいましたが、それでもいつもたくさんの巫剣さんで溢れていた、騒がしいけど温かな感じは遠く……。
だから城和泉さんはあんな提案をしたんだと思います。
少し寂しくなっためいじ館で、それでも元気にやっていくために。
「ねぇ、牛王。最近の主、……どう思う?」
営業を終えためいじ館で店じまいの準備を始めた城和泉と牛王の2人。
城和泉の要領を得ない言葉に、牛王は真意を測りかねていた。
「どうって。どうしたんだい、急に」
「その……。主、最近元気がないように思うのよね」
「そうだね。いろいろあったし、何より隊長くんの中にはミヅチがいるわけだしね」
「そう、よね……」
「で、何の相談なんだい?」
「それは、その……」
はっきりとしない城和泉に、しかし牛王はその様子からなんとなく察してしまう。
何かやりたいことがあるのだろう。そして自分に協力してほしいのだろう。ただ、それが素直に言えないのだ。
「ふふ」
自然と顔がほころぶ牛王。
「どうせやるって決めているんだろう? 今更わたしの許可が必要なのかい?」
聖十郎のために何かしたいことがあり、その提案に協力してほしい。真意に気づき、少し意地悪げに聞く牛王。
「もう! そんな言い方しなくても! 決まってるけど……」
「じゃあ言いなよ。隠す必要なんて無いんじゃないかな」
「そうだけど……」
「君、本当にそういうところ……」
普段はあれだけ強気なのに。そう言いかけて言葉を止める。
強気なわけではないのだ。城和泉はきっと自分と同じくらい臆病なんだろう。最近の城和泉を見て牛王はそう感じていた。ただ自分と違うのは、彼女は真っ直ぐなのだ。何をするにも真っ直ぐで。
いつも冷静に物事を見ようとする牛王にとっては、それがひどくうらやましく思えた。
「なんなら、桑名江も呼ぼうか? どうせ3人でやろうって言うんだろうし」
「そうなんだけど……」
「歯切れが悪いなぁ。君が何を言い出しても今更驚くような仲でもないじゃないか」
「じゃ、じゃあ言うけど……」
「どうぞ」
「主と、みんなで公園にでも行きたいなって、思って……」
「公園? なんでまた?」
「ほら、主、最近忙しいし疲れてるでしょ? ミヅチのことは心配だけど天羽々斬様も今のところは大丈夫って言ってたし……」
言葉を紡ぐにつれ、自信なさげに声が小さくなっていく。
「だから、慰労も兼ねて……」
そして、すぐ近くにいる牛王にさえ聞こえるか聞こえないかほどの声で呟く。
「……なるほど」
「牛王はほら、私よりは人の身体に詳しいでしょ? だから主の体調とかも分かるかなと思って」
「いいんじゃないかな、公園」
「いいの!?」
即座に返す牛王と驚く城和泉。
「私、反対されるとばかり」
「反対してほしかったのかい?」
「そうじゃないけど……。でも体調とかいろいろ……」
「そうだね。もちろん隊長くんの身体のことは心配だよ。でもね、このまま籠もっているのもいいとは思えない。それに――」
「それに?」
「ミヅチのことなら、神剣様が太鼓判を押してたじゃないか」
「そ、そうよね!」
「じゃ、じゃあ、私、桑名江にも伝えてくる」
言うが早いか、喜び勇んで厨房にかけていく城和泉。それを目で追う牛王。
自分にない真っ直ぐさ。それは感情的と言い換えても良いかもしれない。
でも、その感情的な部分こそが城和泉の――彼女の強さなのかも知れないと牛王は感じていた。
城和泉の入っていた扉を見つめる。
程なく、厨房から城和泉と桑名江の楽しげな声が聞こえ始める。
話がまとまったらしく当日持って行く弁当の内容について話しているようだ。おかずは何がよいか? 好物は?
そんな城和泉と桑名江のやり取りを聞きながら、牛王は閉店作業の続きを始めた。
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