第12章 3話「めいじ館へ向けて」


 夜も更けた未明。


 城和泉と牛王を隠れ家に残し、聖十郎と桑名江は一路めいじ館を目指していた。


 牛王から持たされた地図を頼りに、上野を目指す。

 道すがら桑名江がゆっくりと口を開いた。


「主様、わたくしのわがままを聞いてくださってありがとうございます」


 その声色からは、普段からあまり自身を出さない桑名江の安堵や申し訳ないという思いが感じられる。


「わがままなものか。君のたっての願いじゃないか。それに俺もめいじ館のことはずっと気になっていた」


 そう答える聖十郎。


「大尉には悪いことをしたがいい機会だったんだよ」


 冗談めかして続ける。


「大尉さんには、本当に……」


 桑名江がすまなそうに返す。

 しかし、すぐにはっきりと言葉を継ぐ。


「ですが、めいじ館はわたくしにとって、本当に大切な場所なんです。わたくしは主様の巫剣ですから巫剣と巫剣使いとして繋がっています。でも、それはたった2人だけの関係なんです。」


「……」


 じっと話を聞く聖十郎。


「わたしたちが百華の誓いを立てて、武器であることをやめ、人の世に溶け込もうとしたとき、わたくしたちには社会との繋がりが必要でした。……この世界で1人にならないために。」


「……」


「わたくしたち巫剣が主様を中心として、家族として人の世で歩んでいくためにもめいじ館は必要だったんです。あそこがあったからきっとわたくしたちは1人にならずに済みましたし、ゆっくりとですが家族になっているんだと思います。」


 そう話す桑名江。

 その言葉からは、どこか切実な、祈りにも似た想いが感じられる。



「そうだな。なら、尚更『ここ』がどうなっているのか、知らなきゃいけないな」


 静かにそう答える聖十郎。

 街灯の消えた暗い闇の中に、灯りのないめいじ館が現れた。





 << 第13章へ続く >>

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