第10章「迦具土命」

第10章 1話「響く声」


「どうしたんだい? 浮かない顔だねぇ」


 暗い。井戸の底のようなジメリとした感覚が肌を伝う。

 上も下も分からないような闇の中で、目の前に立つ女が、さもうれしそうな顔でそう言った。



 ミヅチだ。

 聖十郎は、自身にまとわりつくその感覚に顔をゆがめながら、目の前の女を睨みつ

ける。


「今度は随分と早いお目覚めだな。普段なら一度消えればしばらくお前の姿を拝まなくて済むが」


「君が待っているんじゃないかと思ってね。それよりもどうだい、最近は」


「何がだ?」


「だいぶ具合がよさそうじゃないか」


「うるさいっ!」


「おっと。こわいこわい。でも、そう言って怒るくらいには効いているんだねぇ。私もうれしいよ」


「……ッ」


 聖十郎の顔が苦痛に歪む。


「あっはっは。いい顔だね、君。まぁ、時間も残り僅かなようだし、せいぜい楽しむといいよ」





「う、うぅん……」


 和室の格子戸から朝日が差し込む。


「朝か……。いやな夢だ……。いや、夢ではないか……」


 つぶやき、身体を起こす聖十郎。それを待っていたかのように木戸の外から声がかかった。


「主様、お目覚めですか?」


 その声に、今日の予定を思い出す。


「そうか、今日はこの後……」


 呟くと、再度の誰何の声がかかり、慌てて返事を返す。


「すまない。今用意して出る」


 手早く身支度を調えると、聖十郎は部屋を出た。

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