天華百剣 -斬- メインシナリオ第四部8章〜終章

天華百剣 -斬-/電撃G'sマガジン

第8章「動き出した日常」

第8章 1話「報告書」


 ――時は、めい3×年。


 人に仇なす存在『禍憑まがつき』を滅ぼすため、歴史の影で戦う者たちがいた。

 少女の姿をした特別な刀『つるぎ』。


 彼女たちは、御華おはなしゅうと呼ばれる組織に属し、日夜人の世を脅かす禍憑を祓い続ける。

 御華見衆の上野支部『めいじ館』では、そんな巫剣たちと、彼女たちを扱うことのできる剣使つるぎつかいが共に生活をしていた。


 洋風茶房を営む表の顔と、禍憑を祓う裏の顔。

 これは、近代化により変わりゆく時代の中で絆を信じ、戦い続けた巫剣たちとある青年の物語。





 出会いは別れの始まり。


 誰かが、そんなことを言ってました。

 人は誰しもそのことを心のどこかで理解しながらも、きっと見ないようにして生きているんだと思います。


 わたしたちもそうでした。

 人間と違い、長い歴史を生きる巫剣さんたち。彼女たちには尚更それが分かっていて……。


 だから、あの日隊長さんが、あめのむらくものつるぎ様に斬られ意識を失った時、じょう和泉いずみさんはあんなに取り乱したんだと思います。今まで見ないようにしてきたから。


 

 このお話は、隊長さんが意識を取り戻してから一ヶ月後。

 壊れためいじ館の広間が修繕され営業は再開されても、御華見衆の機能は未だ不完全なままの、そんな夏の一日から始まります。


 まさか、めいじ館があんなことになるなんて、このときは考えもしませんでした。





ななねぇ、これどこ持って行けばいいの~?」


 大量の報告書を抱えた少女が、めいじ館の廊下を右往左往していた。彼女――よいは、めいじ館の工房を一手に引き受ける技術者だが、今は少し事情が違う。


「もう! 隊長さんのところにお願いって言ったじゃない」


 そんな八宵の声を聞いてか、姉の七香が駆けよってくる。


「そうは言ってもこの量なんだよ? 少しは手伝ってよ」


「それじゃ八宵に頼んだ意味がないでしょ? わたしはわたしですることがあるのに……」


 不甲斐ない妹の様子にため息を漏らす七香。


「でもこの量なんだよ?」


「しょうがないなぁ……」


 呆れた様子を見せつつも、八宵が抱えていた報告書の束をひとつふたつと抱えていく。


「すごっ! 七香姉ぇって結構力持ちなんだね」


「慣れてるからね」


 言うが速いか、そのまま歩き出す七香。

 残りの報告書の束を抱えながら、慌てて八宵がその後に続く。


「ねぇ、七香ねぇ。これって何の報告書なの?」


「今、他の支部に巫剣さんが出張してるでしょ? そこで扱った事件とか禍憑の発生状況とかいろいろ」


「そっか。今、本部の結界が機能してないから……」


 八宵が不安そうな表情を見せる。


「霊脈の乱れとか禍憑の発生を予知できないからね」


 そう答える七香だったが、八宵の表情に陰りがあることを察すると、慌てて気遣った言葉を続ける。


「巫剣さんたちもこうして日本各地で対処してくれてるんだしね! 報告書が多いのは、それだけ解決してるってこと」


「確かにそうだよね! でも、すごい量だよねぇ。もしかして隊長さんはこれ全部読むの?」


 改めてその報告書の多さに驚く八宵。


「うーん……。そういうことになるのかな?」


「うわぁ……。そっちの方がたいへんかも」


 改めて深いため息をつく八宵だった。

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