終章 最終話「めいじ館」


 支倉少佐の起こした事件から数週間後。


 聖十郎は、城和泉、桑名江、牛王を伴って街に来ていた。

 目的は、めいじ館を維持するための資材の調達なのだが……。



「ねぇ、なんで私が荷物持ちなの?」



 普段は颯爽と前を歩く城和泉が、大荷物を抱えて後ろからついてくる。

 聖十郎の隣に陣取った牛王がその姿を面白そうに見ると



「君、相変わらずじゃんけん弱いよね」



 そうイタズラっぽく笑う。

 隣では申し訳なさそうな顔の桑名江が助け船を出そうとするが、先回りした牛王に止められてしまう。



「すみません、城和泉さん。次の角までですから」



 本当に申し訳なさそうに言う桑名江に、城和泉もそれ以上不満を言えなくなってしまう。




「非番の日に付き合わせてすまないな」


 聖十郎も含めためいじ館の巫剣たちは、現在みやこ屋に身を寄せている。


 あの事件からめいじ館は無期休業となってしまったが、それでもいずれ営業を再開するためにと、有志が日々めいじ館の手入れを行っていた。


 それもあって、しばらくは聖十郎も城和泉たちも新しい環境に慣れるためバタバタした日々を送っていた。


 こうして4人で街を歩くのも久々だなと感慨に耽る聖十郎。

 ふと、あの日城和泉が口にした言葉が頭をよぎった。



 ――誓いを守って大事な人をなくすくらいなら、誓いなんて――




 聖十郎がぽつりと言う。


「城和泉、『百華の誓い』なんだが――」


「分かってるわよ」


 聖十郎が言わんとすることを察したのか、城和泉が聖十郎の言葉を遮った。


「あれは、ほら勢いっていうか、ね?」


 そう言い訳がましく言う城和泉を桑名江と牛王が見やる。


「勢いねぇ」


 呆れた感じで言う牛王。


「い、勢いでもさすがにあれは……」


 桑名江も続ける。



「君たちがこれからもずっと人と関わっていくために、あの誓いは必要だ」


 聖十郎が言う。


「そうだけど……」


「君の気持ちは分かってるつもりだ。でも君たちは俺のいなくなった世界でも生きていかなきゃいけない」


 その言葉にハッとする3人。

 人と巫剣の大きな違いがそこにはあった。


「な、何も今そんなこと言わなくても!」


 慌てた様子で城和泉が言う。

 それはずっと考えないようにしていたこと、分かってはいるが見ないようにしていた事実だった。


「主様……」


「隊長くん……」


「3人とも聞いてくれ」


 聖十郎が言葉を続ける。


「俺は君たちほど長くは生きられない。でも君たちは違う。これから先、君たちが俺たち人間と共に生きていくためにも、あの誓いを大事にしてほしいんだ」


 そう言って、3人をみる聖十郎。





 神妙な面持ちの3人。言葉もなく、歩き続ける。

 やがて遠目にめいじ館の屋根が見え始めると、城和泉が口を開いた。


「分かってるわよ。分かってる……」


 桑名江も続く。


「そうですね。わたくしたちは選んだんです」


「そうだね。わたしたちの意志で選んだんだ」


 牛王も同意する。


「でもね、主」


 城和泉が言った。


「それは今じゃないわ。今はまだ主と一緒にいられるもの。だから、ね? 主」




 そう言う城和泉の目線の先には、休業中のめいじ館が見えていた。


「ああ、そうだな」


 ぽつりと答える聖十郎。




 4人はゆっくりと歩いて行く。

 その先には、めいじ館があった。





 - 了 -






『天華百剣-斬-』より、皆様へ


 最終話までお読みいただき、ありがとうございました。

 ゲームに実装するためのシナリオとして具体的に準備していたお話は、ここまでとなります。


 改めまして、今まで『天華百剣 -斬-』を遊んでいただき、楽しんでいただき、本当にありがとうございました!

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天華百剣 -斬- メインシナリオ第四部8章〜終章 天華百剣 -斬-/電撃G'sマガジン @gs_magazine

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